fc2ブログ

scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero (2)百花撩乱の風 -3-

三週間にわけての発表する「百花繚乱の風」の章の三回目です。

前回、真樹の同僚の「樋水村……。そりゃ、ヤバいぞ」で切ったのですが、その続きです。いかにも「続きは次号で!」や「衝撃の事実はCMの後!」のような引っ張り方ですが、まあ、例に漏れず(以下省略)。

それと、おわかりだと思いますが、この小説はフィクションです。実在する団体、人名、地名、宗教とは一切関係がありませんので、混同なさいませんようお願いいたします。


「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


この作品は下記の作品の続編になっています。特殊な用語の説明などもここでしています。ご参考までに。
「樋水龍神縁起」本編 あらすじと登場人物



樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero
(2)百花撩乱の風 -3-



「何がヤバいんだよ」
「あの村は特別なんだよ。樋水龍王神社はあんなに小さいくせに、やたらと崇敬者が多いし、宮司には出雲大社を動かすほどの力があるんだ。村人の四人に一人は霊感があるって言うし、変な事が実際に起きるらしい。それだけに結束がやたらと強くて、よそ者に厳しいんだ。以前、若い娘を松江の男が孕ませたら、徹底的に破滅させられたって話だぜ。お前も氣をつけろよ」

 小さな神秘的な村。瑠水はその四人に一人の能力があるのだろう。神社の池に龍がいるなんていう高校生がいれば、そりゃあクラスメイトはひくだろう。だが、たぶん瑠水の今までの環境では、それは当たり前のことだったのだ。

「龍って、どういう形をしているわけ? 絵に書かれているのと似てる?」
好奇心から真樹は訊いてみた。

「龍王様の方は、ほぼ同じ。角があって、鱗のある長い胴体があるの。顔はトカゲみたいでもあるし、おじいさんみたいな感じでもあるかな。色は真っ白なのよ」

「龍王様の方はってことは、他にもいるのか?」
「青白いのがね。お母さんは龍とはいわないでみずちっていってる。そっちは蛇みたいなの。でも、私はそっちの方が好きなの」
「どうして?」

 瑠水は戸惑った。龍のことや蛟のことは樋水村では事実として受け止められていた。『見える者』とそうでないものがいたが、とにかく存在するのだということは、宮司のお墨付きで認められていた。けれど『水底の皇子様とお媛様』のことは、瑠水の妄想だということになっていたのだ。瑠水にとってはあの二人が本当でないなら龍だって同じなのだが、他の人にはそうではないらしかった。

「あのね。子供の頃から大切にしている夢物語があるの。それは蛟が通る時にとても強くなるの。だから、私は蛟が好きなの」

 真樹はちっともわからないという顔をしていた。瑠水はため息をついた。せっかく仲良くなったのに、こんなことで氣味の悪い子と思われたくない。

「池の底にね。誰かがいるの。二人。その二人はいつも一緒で、とても幸せなの。私は、子供の頃からその二人を感じていて、皇子様とお媛様って呼んでいるの。その二人を感じる時には、心の中に風が吹いてきて、幸せで泣きたくなるの。ちょうどバイクに乗っているときみたいな風なの」

「なんで瑠水はそんな悲しそうな顔で、その二人のことを話すんだ?」
瑠水は、驚いて真樹を見た。真樹はうんざりした顔も、馬鹿にした顔もしていなかった。

「だって、みんなそんな二人はいないって言うんだもの。私だけの妄想みたいに言われているの。だから、二人のことは子供の頃からずっと誰にも話していなかったの」

 真樹はぽんと瑠水の頭を叩いた。
「自分が見えないからって、威張ることはないよな」

 真樹はもちろん龍とも霊とも無縁だった。だが、自分の感性だけを基準にして相手の感性を全否定する人たちの心ない言葉のことはよくわかっていたので、この感受性の鋭い少女の孤独がよくわかった。

「シンはこういう話、氣味悪くないの? 出雲の人たちはみんな私のことを変な子だって言うよ」
「お前がへんなのは間違いないけれど、その二人が見えるからじゃないよ。俺にはお前に見える龍だの皇子様だのはたぶん見えない。でも、俺はお前が馬鹿げた嘘をつくような子じゃないことはわかっているよ。それに、その風がバイクの風だっていうなら、なおさらだ」

「どうして?」
「具体的だからさ。どういう感覚か、俺にもわかるもの。なあ、大切なものはいずれにしても人の目には見えないんだ。そうだろう? クラッシック音楽を聴いた時に湧き上がる感情や、バイクに乗るのが好きな理由、それに人を愛することだって数学の公式みたいには証明できないんだ。お前はお前のままでいいんだ。見えているもの、大事なものを大切にしろ」
「うん。ありがとう。そんな風に言ってくれたの、シンが初めて」

 それから、瑠水と真樹は定期的に出かけるようになった。

 一は早百合が生まれた時に、いずれは自分も娘のボーイフレンドに大騒ぎするようになるのかと思っていたが、早百合が幼児の頃から早良彰にべったりだったのでそのチャンスを逃していた。いよいよ、騒ぐべきときが来たかと思ったが、意外にその氣になれなかった。真樹はぶっきらぼうだったが礼儀正しくて、しかも、毎回堂々と『たかはし』に瑠水を送り迎えするので特にケチを付けるところもなかったのである。しかも、瑠水は完全にお友達感覚で、男とつきあっているという意識がなかった。

 真樹が帰った後に、摩利子がぼそっと言った。
「仲いいみたいだけど、このまま恋仲になるのかしらねぇ。どうしたものかしらね」

「シンくんは瑠水の相手としてはダメかい?」
一は摩利子に話しかけた。

「ダメだなんて言っていないわよ。でも、別におすすめじゃないわよね」
「なんでさ。バイクに乗っているから不良って言うんじゃないだろうね。新堂さんだってバイクに乗っていたよ」

「不良だとは思ってないけど、でも、そういうシンクロが氣になるのよ。瑠水はやけに樋水や龍王の池に固執するし、六白金星だし。シンくんだって六白なのよ。タヌキ宮司に目を付けられて『背神代』と『妹神代』にでもされたら困るじゃない」

「武内先生をタヌキっていうのやめろよ」
「ふん。新堂さんだってタヌキって言っていたわよ。タヌキはタヌキだもの」

「せめて外や子供たちの前では言うなよ」
「わかっているわよ」
一は深く息をついた。

 摩利子は意地悪そうに言った。
「普通は、娘に虫がつかないように騒ぐのは男親の方なんじゃないの?」

 一はムッとしたように言った。
「虫はつけたくないけど、シンくんは悪い子じゃないよ。それに、俺だって摩利ちゃんのお父さんから見たらロクでもない虫だったんだろうから、俺はシンくんに同情するんだよ。誰もが新堂さんや彰くんみたいに出来た男じゃないんだ」

「彰くんねえ。勉強はできるし、エリートコースまっしぐらなのは間違いないけれど、新堂さんと較べるのはちょっと。大体、早百合の勢いに押されっぱなしで」
「まあ、それはそうかも。早百合は彰くんに夢中だからな。ま、平凡だけれどいい奥さんになるんじゃないか」

「そうね。でも、瑠水はねぇ。我が娘ながら、どっか超越しちゃっているのよねぇ。次郎さんは媛巫女さま扱いだし……」
「だから言っているだろ。瑠水はゆりの生まれ変わりなんかじゃない。ゆりはきっとどこかで生きているんだ。それにシンくんだってあまりにも新堂さんとはキャラが違いすぎるよ」

「シンくんが新堂さんの生まれ変わりじゃないことははっきりしているわよ」
「なんでさ。オーラの違い?」

「馬鹿ね。計算してみなさいよ。シンくんが生まれた頃は、新堂さんはうちで山崎を飲んでいたでしょ」
「あ、そっか。千年祭の年の生まれなんだ」

「私は瑠水もゆりさんの生まれ変わりではないと思うのよね。オーラの色は似ているし、『見える者』であることも間違いないけど、でも、なんとなく違うと思うのよ。でも、それでも心配なの。あまりにも樋水の申し子っぽくて『鬼』に目をつけられるんじゃないかって。だからボーイフレンドが申し合わせたように六白だったりバイクに乗っていたりすると、よけい心配になっちゃうのよねぇ」
関連記事 (Category: 小説・Dum Spiro Spero)
  0 trackback
Category : 小説・Dum Spiro Spero
Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
 こんにちは。
確かに 此の世界観 思考は 其の世界からしたら ヤバいです。

うーーん 生まれ変わりーー オーラって その様な単語が 日常会話にでてくるとは かなり…
と思うのですが…
此の両親 この村の中では 非常に革新的な人物なのかな。

自然と一体となっている 心地よさだけではなく 苦しさが 書き表されているようで 面白いです。
2013.04.17 06:02 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは、TOM-Fです。

更新、お疲れさまでした。

真樹の「大切なものはいずれにしても人の目には見えない……」という件は、いいですね。こういう全面肯定みたいなことを言ってもらえたら、ほんとうに嬉しいでしょうから。
この二人が、これからどのように愛情を育んでいくのか、楽しみです。

それにしても、六白金星ですか。運命ですね~。
いずれ、武内宮司VS高橋夫妻という対決が見られそうですね。いやはや、この二人、いい味出してます。

次話の更新、楽しみです。
2013.04.17 17:50 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

ええとですね。オーラの件は、この村では革新的でもなんでもないです。日常会話。

この夫婦は東京育ちなので、摩利子に見えているものを「オーラ」と呼んでいますが(一には何も見えていない)、何と呼ぼうと、この村ではあたりまえのことです。

ただ、瑠璃媛と春昌の生まれ変わり云々は、この神社のトップシークレットですので知っているのは宮司たちの他数名だけです。二人は新堂夫妻の親友で、いろいろと巻き込まれたので知っているのですが。

この話、超能力の話のように見えますが、ラノベやゲームで言う「魔法」や「アイテム」とは意味合いが違います。つまり、人よりも優れている点の話ではなくて、人と違っている点の話ということです。

この話では「私にだけ見える○○」ですが、これは人生のいろいろな場面であることで、真樹がいう「クラッシック音楽が好きだけれど、周りにはあまり理解してもらえなかった」や、「大道芸人たち」の登場人物の「なぜ浮浪者同然の暮らしをし続けるのか」などと、本質的に同じなのです。だから、「ラッキー」だの「すごい」だのとは違った書き方になっています。

それと、この村のことは、本編を読んでいないと、わかりにくいかもしれませんが、この後に、おいおい説明も出てきますのでお許しください。

コメントありがとうございました
2013.04.17 19:22 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

摩利子と一の理解もそうですが、瑠水と真樹も、かたや「見えまくり」でもう一方は「何も見えない」の組み合わせなのですが、そのことはが本質的な二人の相互理解には何も影響していないということが重要なんだと思います。

二人とも六白というのは、後々、ストーリーに関係してきます。

高橋夫妻みたいなカップルは、かなり理想ですよね。書いていて楽しかったです。

来週は「十二ヶ月の歌」なので、続きは再来週になります。どうぞお見捨てなきよう……。

コメントありがとうございました。
2013.04.17 19:31 | URL | #9yMhI49k [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:https://yaotomeyu.blog.fc2.com/tb.php/536-719ea179