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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero (3)新しい媛巫女さま -1-

「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」です。またしても前の章から時間が経っています。章ごとに時間が飛ぶのかと困惑なさる方もあるかもしれませんが、しばらくは真樹27歳、瑠水18歳のままで話が進みます。切るかどうか悩む長さだったのですが、一応二回に分けました。続きは来週です。

繰り返しますが、この小説はフィクションです。実在する団体、人名、地名、宗教とは一切関係がありません。


「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


この作品は下記の作品の続編になっています。特殊な用語の説明などもここでしています。ご参考までに。
「樋水龍神縁起」本編 あらすじと登場人物



樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero
(3)新しい媛巫女さま -1-


「瑠水。あんた、まだあのロリコン消防士とつきあっているの?」
早百合の言い方に瑠水はムッとした。
「お姉ちゃんの言い方、品がなさ過ぎるわ。シンと私はいい友だちなの。やらしい変な関係じゃありませんから」

 早百合は馬鹿にしたように言った。
「それはあんたがそう思っているだけでしょ。いい大人が何の下心もなしで高校生と三年間も定期的にドライブに行く? その間、あの男、つきあっている彼女もいないんでしょ? あり得ないよ」

 瑠水と真樹が知り合って三年の月日が経っていた。瑠水は高校三年生になっていた。

 早百合は短大を卒業して、松江の小さな商社で事務の仕事をしていたが、一刻も早く寿退社がしたいと常々吹聴していた。

「お姉ちゃんこそ、お父さんとお母さんに隠れて彰くんとやらしいことしているんでしょ」
「ふふん。私たちは大人の関係なの。それに、彰くんのうちとは家族ぐるみの付き合いなんだから。彰くんが東大を卒業したら、一刻も早く結婚したいなあ。東京に行けるし。こんなつまんない田舎、もう飽き飽き」

 早百合は子供のときから彰が大好きだった。早良浩一は、しょっちゅう彰をつれて樋水村を訪れた。一と摩利子は夏休みには三週間ほど、冬休みと春休みには一週間ずつ彰を預かり、田舎の生活を体験させた。それで、彰は高橋家にとってただの知り合いの子供以上の存在になっていた。同い年の彰と早百合はずっと仲がよかったし、思春期になると早百合はすっかり彰にのぼせ上がった。

 瑠水の方は兄のような感覚で彰と接していたが、早百合と同じで瑠水の大切にしているもの、つまり樋水や龍王の池や『水底の二人』などを馬鹿にするので、あまり近しくは感じられなかった。最初は四つという年齢の差が、この距離感を生むのかと思っていた。しかし、真樹と会って、年齢の差にはあまり意味がないのだと思うようになっていた。真樹は彰よりずっと年上だったが、瑠水にはずっと近い存在だった。

 確かに真樹は大人だった。瑠水はまだ高校生だった。その差を感じさせる出来事が一年ほど前にあった。瑠水が通う高校に、出雲消防署が特別授業に来たのだ。何人かの消防士に混じって、真樹も来ていた。校庭に集まった全校生徒の前で、火災が発生した場合にどうやって一酸化炭素中毒を防ぐかという講義をしたり、天ぷら油に発火した場合に水をかけたりするとどうなるのかという実演をしたのである。

 真樹はそのもっとも危険な実演を担当していた。瑠水は真樹がいるのが嬉しくて手を振ったのだが、厳しい顔をした真樹はそれに応えなかった。近くに寄りたがる女学生たちを、他の消防士たちができる限り遠くに誘導した。火のあがった天ぷら鍋に、真樹がかけた水が届いた途端、ものすごい勢いで炎が天に立ち上り、もう少しで真樹を焼き尽くすところだった。瑠水は蒼白になった。真樹はまったくひるまずに他の消防士たちと一緒にその炎を消し止めて実演を終了した。ほかの生徒たちは拍手と歓声を送ったが、瑠水にはそんなことは出来なかった。

「なぜあんな危険なことをするのよ。シンが本当に焼けるかと思ったのよ」
次に会った時に瑠水は半泣きになって怒った。真樹は厳しい顔をして言った。
「あれが、俺の仕事なんだ。あれは実演だからコントロールされた火だけれど、火事のときはコントロールの利かない炎の中で闘うんだよ。火は怖い。だから、ああやって実演をして、正しい防火の知識を一般の人につけてもらわなきゃいけないんだ」

 瑠水は自分が子供で、真樹は大人だと感じた。仕事とは、そんなに厳しいものなのだろうか。瑠水は大人になることに不安を持った。

「危険な仕事に就かなければいいじゃないか」
「そっか。そうよね」

「瑠水はどんな仕事がしたいんだ?」
「私、何か樋水のためになる仕事がしたいな」

「例えば?」
「私は石が好きだから、最初はアクセサリーづくりとかいいなと思っていたんだけれど、シンの仕事を見ていたら、なんかもっと人の役に立つような仕事ないかなと思って。防災とか。石と防災って関係ないかしら?」

「土砂崩れがおきやすいところを調べて、対策を立てるっていうような仕事もあるんじゃないか?」
「そうね。そういう仕事を探してみようかなあ。理系かなあ」

 真樹は瑠水をまぶしそうに見た。まだ、高校生だもんな。これから勉強して、仕事を見つけて。結婚なんかはまだずっと先だろうな。

 もうずいぶん前から、真樹にとって瑠水はただの友だちではなくなっていたので、瑠水が大人になるのがそれほど先のことだと思うのは多少辛かった。思いを伝えたい衝動はいくらでも起こったが、瑠水の深い友情と信頼が真樹の足かせになっていた。

 この三年間、真樹は週に一度は樋水村に行っていた。神の国、出雲の人間にとっても樋水村というのは神秘的で独特だった。基本的な村人の考え方は五百年前とあまり変わりがなかった。人びとは洋服を着ており、バスも通っていて、子供たちは出雲の高校に通い、必要な時には松江の百貨店にも行くのだが、それでも村の中心には樋水龍王神社があり、村は神域である森の内側にあった。村の中でカミの怒りに触れるようなことはめったに行われない。神罰が実際に下るとも噂されていた。

 氏子である村人、島根以外にも広がる多数の崇敬者らは、冗談でなく龍王神社の瀧壺に龍が住んでいると信じている。そして、その龍は神事でなくても平氣でばんばん出没するのだそうだ。

 二十年以上前からは、その瀧壺の住人が増えたともいわれている。それと時を同じくして、樋水川には支流が一本増えたのである。

 その新しい蛟川と呼ばれている支流の周辺に住んでいた人は、非常に迷惑をしたようだ。ある時から、自分の家の敷地の一部が湿り大雨の度に浸水するようになった。そしてその水はなかなか引かず、結局一年ほどで完全な川になってしまった。今では通年流れる支流となり、せき止めようと努力を続けた家の持ち主も行政も諦めてしまった。

 樋水村では、奥出雲の治水行政のことを「止められやせん」とせせら笑っていたそうである。
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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
こんにちは、TOM-Fです。

瑠水ちゃん、18歳かぁ。ちょっと子供っぽいけど、可愛らしいですね。
樋水のためになる仕事をしたい、という瑠水ちゃん、なんだかもう正位置の「運命の輪」って感じですね。樋水の聖域というか神域に囚われている感じが、瑠璃媛を思い出させます。早百合との対比が見事ですね。
真樹くんは、いいヤツですね。真面目だし、仕事もできそうだし。
こういうカップルには、ぜひ苦労してもらって、読者をヤキモキさせてもらいたいです。

樋水村や蛟川の件、こういう設定やお話は、大好きです。ええ、ツボにはまりました。
神(自然)のすることを、人間では「止められやせん」ですね。
2013.05.02 02:19 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。
瑠水は、かなり子供っぽいです。都会じゃありえませんし、樋水村出身でもこんなのは稀でしょう。まあ、出雲の高校のクラスではドン引きされていますし、真樹や神社の面々が純粋培養しているので、よけい世間知らずに(笑)
ご安心ください。ヤキモキはいろいろと。

都会にいると、ありえないような話ですが、実は樋水村みたいな村が、日本のどこかにいろいろと隠れているんじゃないかなあと、ロマンを持っています。あるといいですね。蛟川の流域に土地を持っていた人はかわいそうですが。

コメントありがとうございました。
2013.05.02 18:57 | URL | #9yMhI49k [edit]

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