FC2ブログ

scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】さよならなんて言えない

「十二ヶ月の歌」の五月分です。

「十二ヶ月の歌」はそれぞれ対応する歌があり、それにインスパイアされた小説という形で書いています。五月はtrainの“50 ways to say goodbye”を基にした作品です。この曲、日本でも流行ったのでしょうか。メキシコのマリアッチ風の演奏がとても印象的で、スイスでは一時期毎日かかっていました。

「なんで俺をふって、いっちまうんだよ。ちくしょう、だったらみんなにこう言ってやる」と負け惜しみ的に騒ぐ歌。今回は、おなじみのキャラを使って、イメージを表現してみました。歌のYoutube動画と一緒にどうぞ。


短編小説集「十二ヶ月の歌」をまとめて読む 短編小説集「十二ヶ月の歌」をまとめて読む



さよならなんて言えない
Inspired from “50 ways to say goodbye” by train

 冗談じゃない、聞いていない。信じられないよ。ドミニクはスクーターを思いっきり吹かしてカンポ・ルドゥンツ村へと向かった。スイスの春、かつ夏ははじまったばかりで、全ての樹々は若葉に覆われているけれど、若くて柔らかい若緑はあっさりと風になびく。強い陽射しに、香り高くライラックが揺れている。こんないい日に聞かされるべきじゃないニュースだ。彼はぶつくさつぶやいた。しかも、チャルナー家のおしゃべりババア、俺が知らないと知ったら、さも面白そうに笑いやがった。

 リナ。なんで、この俺に内緒にしたんだよっ。

 カンポ・ルドゥンツ村の大通り(といっても普通乗用車がようやくすれ違える広さしかないけれど)を猛スピードで北に向かうと、ラシェンナ村へ続く小道へと曲がる。このあたりは日当りがよく村の金持ちが住んでいる。グレーディク家は中でも丘の礼拝堂に一番近い広い敷地に立っている。ドミニクは、その敷地内に入るとエンジンを切った。

 窓がぱーんと開いて、リナが顔をのぞかせた。
「ドミニク、どうしたの?」
初夏の陽射しを受けて、そのヘーゼルナッツブラウンの髪が硬質に煌めいた。ドミニクの、(彼の意見によると)彼女である美少女は、ヘルメットを投げ捨てた少年の剣幕に驚いている様子だった。

「どうしたも、へったくれもあるか。リナ、留学するってのは本当か?」

 リナは肩をすくめてあっさりと答えた。
「ええ、本当よ。八月からね」

 ドミニクは叫んだ。
「なんで、俺に隠すんだよっ」

 リナは、大きな口を開けて、にかっと笑ってから言った。
「下に降りるから待っていて」
それから、顔を引っ込めた。彼女の消えた窓には白いレースのカーテンがそよ風に揺れている。爽やかな午後だ。

 玄関がぱたんと音を立てて、リナが出てきた。家でもこんな派手なかっこをしているのかよっ。ドミニクは眼を剥いた。シマウマ柄のカットソーに赤い革のミニスカート。長い足がにょきっと出ている。ドミニクが夢中になっている十六歳の超絶美少女だ。

「ドミニクったら、知らなかったのね。私、言わなかった? 一年間の交換留学制度に応募したこと」
「どこに行くんだよ」
「東京。日本よ」

「な、なんだって~? なぜ、あんな極東の島国に行かなくちゃいけないんだ」
「なぜダメなのよ。面白そうだったし、応募者が少なかったからチャンスが増えるでしょ」

「だいたい、なぜ留学しなくちゃいけないんだ。俺たち、再来年には卒業試験を受けて、一緒に大学に行こうって話していたじゃないか」
「まあね。一年くらい遅れても、別にいいかなって思うけれど。日本で一年過ごすなんて、めったにない経験じゃない?」

「いつ決めたんだよ」
「願書を出したのは二月ね。決定したって言われたのは四月よ。ほら、ロンドン旅行に行ったりしてバタバタしていたでしょう。まだ、みんなにもちゃんと話していないのよね」

 だけど、俺たちの仲なのに。ドミニクは心の中で叫んだ。実をいうと、二人の仲はまだ完全なステディとは言いがたかった。二回くらい一緒に映画に行って、バーでワインを奢ったりはしたけれど、まだ手を握る所までは行っていないのだ。リナのことを狙っている同級生はいくらでもいるけれど、二人きりのデートに成功したのは自分だけだと自負していた。今週末こそ、なんとか自分の部屋に連れて行き、次のステップに進む予定にしていたのだ。

 それだというのに、チャルナー婆さんに指摘されるまで、彼女の留学のことすら知らなかったなんて。

「日本なんか行くとゲイシャとして金持ちに売られちまうぜ。どうせ、一人のサムライに十人くらい妻がかしずかなくちゃいけない、ひどい風習の国だろ」

 リナは呆れた様子で答えた。
「ドミニク。あなた中東あたりのハーレムのある国と、日本とをごっちゃにしていない? ゲイシャとサムライって、いつの時代の話よ。今の日本は、ハイテクとカルチャーの国よ」
「ハイテクとカルチャーだって? そんな世界の果てに、スイス以上のハイテクがあるかよ。それに文化だって、ヨーロッパの方が……」
「バッカねえ。あなたのパパの車だって、あなたのスマホの部品だって、心臓部はみんな日本製じゃない。それに、家に帰ったら、「日本のアニメ」や「日本のゲーム」で少し検索してみなさいよ。びっくりするわよ」

「バッカねぇはないだろ。なんだよ。向こうでひどい目に遭って、ごめんねドミニク、私が悪かったわ、迎えにきてほしいのと、泣いて頼むことになるんだぜ」
「はいはい。何とでも言いなさいよ。とにかく、私は行くんだから。楽しいだろうなあ」

 怒りにまかせてスクーターにまたがったドミニクは、またしてもスピード違反をして通りをぶっ飛ばした。けれど、家に帰ると少しだけ冷静になった。

 日本だって。知ってるさ。ポケモンと、ニンテンドーとユードー(柔道)の国だろ。そんな所に行ったって、一年の無駄じゃないか。ニーハオとか言うんだっけ。それは中国だっけ? ドミニクはそもそも日本人と中国人の違いがよくわからなかった。片っぽが大陸の大きな国土を持った国で、もう一つが島国だという事ぐらいは知っていたが、そのぐらいだった。それでPCの電源を入れると、リナに言われたように、少し日本や東京のことを調べようと検索をはじめた。

 ふむ。国土。人口。えっ。6800以上の島ってマジかよ。スイスより大きな島もあるのか? ええっ。東京だけで全スイスの人口より多いじゃんか。しかもこの本州って島、スイスの五倍以上の面積で人口が一億人以上いるって? どこが島なんだよっ。

 プレートテクトニクス? ええっ。火山が、こんなにあるのかよっ。大丈夫か、リナっ。あ、まあ、一億人以上が生きてんだから、そこまでサバイバルじゃないかもな。

 ふう。落ち着いて写真でも見るか……。げっ。なんなんだ、こりゃ。すっげえ人間の数だ。し、渋谷ね。女の子のスカートがやけに短いぞ。

 ドミニクは、次々と日本と東京に関する情報を検索していった。「日本のアニメ」って言っていたよな。ふむふむ。ええ~っ。「アルプスの少女ハイジ」も「みつばちマーヤ」も日本のアニメだったのかよっ。知らなかったぜ。それに、あれ、なんだこりゃ、なんか色っぽい?

 それは主題歌の入ったロールプレイングゲームのプロモーション動画だった。詳細に描き込まれた背景や人物の衣装、そして切ないが意味のさっぱり分からない歌が三分ほど続いた。ドミニクは半ば放心して、関連動画をクリックした。今度は東洋風の衣装に身を包んだ男女が剣で闘っている。打ち合う剣からは閃光がほとばしり、雷鳴が轟く。異様な怪物が現われてスタイル抜群で美しい女をさらっていく。次の動画では、ロボットのようなものに乗った男女がすごいスピードで戦闘を繰り広げていた。何がなんだかわからなかったが、とにかくその映像美はただ事ではなかった。

 なんだこりゃ~。

 翌朝、学校でリナを見かけた。寝不足のドミニクの顔を見ると彼女はほらねとでも言いたげに大きく口を開けてにやりと笑った。ドミニクは明け方の三時まで、ヨーロッパのジャパン・オタクたちの投稿したありとあらゆる日本アニメやゲームに関する動画をみていた。ついでにアイドルの妙な歌と踊りや、クロサワアキラや、日本料理やキョウトや、シャラクやホクサイの絵まで検索で知ってしまった。全く知らない世界だった。この世に、おもちゃ箱みたいなすごい国があるらしい、日本……。

「どう? これでも、私が日本に行くの、時間の無駄だって思う?」
リナは勝ち誇ったように言った。ドミニクは上目遣いで小さな声で言った。
「なんで黙っていたんだよ」
「え。まだこだわっているの? わざとじゃなくって、本当に言うのを忘れていたんだってば」
リナは困惑していった。

「留学のことじゃねぇよ。日本があんなに面白い国だって、なんで俺に隠していたんだよ!」
それを聞くと、リナは大きな口を開けてニカッと笑った。
「だって、それを先に言ったら、あなたが留学したがったでしょ。ライバルは一人でも少ない方がいいもの」

 ちくしょう。こうなったら学校の休みにでも押し掛けてやる。憶えていろよ! リナと日本。

(初出:2013年6月 書き下ろし) 

追記

train “50 ways to say goodbye"
関連記事 (Category: 短編小説集・十二ヶ月の歌)
  0 trackback
Category : 短編小説集・十二ヶ月の歌
Tag : 小説 読み切り小説

Comment

says...
ひどい偏見
…と思ったけど逆に私もスイスのことはよくわからないや
アルプス山脈とそこを走る鉄道と、それからスイス銀行とチーズぐらい

でもゲイシャサムライのイメージを持ってる高校生は
ドミニクさんぐらいのような気もw
2013.06.05 08:23 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

おお、これは『リナ姉ちゃんのいた頃』の前で、ロンドンで恒樹と出会った後の話ですね!
リナさんらしい、思い切った選択で、またドミニクくんに話し忘れていたというのも、本当に他意はないのでしょうね。

それにしても、ドミニクくんの日本のイメージって……と思いましたが、ボクも考えてみればスイスのことをよくは知らないんだな、と思い返しました。
ついでにいうと、日本にどれだけ島があるかも知らないです(笑)
サムライやゲイシャ……一夫多妻は大奥とかの話なのかな?
文化的な面はともかくとしても、スイスの車にも日本製の部品が使われているほど信頼性が高い技術を有しているのも広くは知られていない……

ジャパニメーション、およびゲームはかなり独特でしょうね。
ファンタジーにしろ、SF(ロボット)にしろ、キラキラしていて、他所から見るとかなり衝撃的なんだと思います。
ボクも初めてゲームのプロモとかを見て、これは凄いと思いましたからね。それも、まだドット絵だったころの話です。

彼も日本に来たら、いろいろと大騒ぎになりそうですね。
それこそ、「さよなら」どころじゃない気が……
2013.06.05 13:26 | URL | #T7ibFu9o [edit]
says...
 こんばんは。
確かに 海外の方からすれば 日本のイメージは 中国と日本とが混ざったような感じを
持ってますよね。
妙に 忍者の人気が高いし…
日本って 島国で小さいイメージありますが 近所が 中国やロシアと言った 妙に大きな国に
囲まれているせいで それなりに 大きくて 其の点も 驚かれますね 確かに。

ああっ スイスかぁ 確かに 詳しくないですね。
そーいえば 知り合いが ローザンヌ目指していたなぁ あれも スイスだったかな…

そして 此れは 日本で大騒ぎフラグ立ちましたね 楽しみです。
2013.06.05 13:36 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

ひどいと思うでしょう?
でも、実はこのくらいの認識多いんですよ。
日本がヨーロッパに対している知識よりずっと少ないんです。
で、もちろんジャパンオタクはいるのですが、彼らもかなり偏った知識を持っている事がわかって愕然とすることもあるんですよ。

サムライはもう日本にはいないと、日本人はわかって使っているんですが、外国人は知らないまま「サムライジャパン」「カワサキニンジャ(これはバイクの機種)」なんて言葉だけを聞くのでまだいるのだと思い込んでいる人も。芸者と花魁もよく取り違えられていますしね。

コメントありがとうございました。
2013.06.05 19:11 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは〜。

そうなんです、あのロンドン旅行の直後ですかね。

日本だとテレビや雑誌でヨーロッパの情報がたくさん流れているし、みなよくヨーロッパ旅行に行くのでかなりよく知っていますよね。でもヨーロッパにとっての日本はそうじゃないんです。
アニメやゲーム(あとAVもか)で日本の事を知っている人はすごくよく知っているのですが、そうでない人にとっての日本は、受動的によく得る情報としては「日本旅行、15日間80万円」てなかんじの富士山と金閣寺が合成された写真の前に舞妓が立っている広告くらいなのですよ。で、スイスでは60年代くらいに流行った写真を中心とした「世界の国シリーズ」の「日本」をいまだに大切に持っている人たちがいて、それには銀座を歩く女性の大半が着物だったりして、なんか現実と乖離しているわけです。

そういう意味では、大奥なんて全くわかっていないで、イメージは「ラストエンペラー(中国じゃん)」だったり。ゲイシャやニンジャが日本のものだとは知っていても、何をさすのかはよくわかっていない。

ゲームをしても、無国籍なRPGをドイツ語で発売されているのをプレイしていればそれが日本のものだと氣がついていなかったり。子供もアニメで「ユーギオー」というのを観ていても、それが日本のものだとは知らないままで。

結局、ものすごく漠然としているわけです。ソニーやトヨタと、ゲイシャとサムライと、シブヤと電車にぎゅう詰めと、ニンテンドーとポケモンと、ヒロシマとフクシマとツナミと。ものすごく断片的な情報しか入っていないから、興味がなければ、平均的な日本人にとってのマラウイとコンゴの違いぐらいにしか、日本と中国の違いがわからない。実際に暮らしてみると、実感します。

で、一度好きになると、ハマるみたいですよ、ニホン好き。私の同僚も七月に日本にまた行くそうです。私は七月の日本なんて暑いから行きたくないんだけれど(笑)

ドミニク、本当に日本に行きますかね? ドミニクとリナと恒樹と栄二とミツが大混戦したら面白いかも。ってことは、紗那さんちの、例のお二人も近くにいるわけですが(笑)

コメントありがとうございました。
2013.06.05 19:32 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

フラグを立てるだけ立てて、放置する私です(笑)

ニンジャ、人氣高いけれど、かなりよくわかっていないかも。亀の形をしていると思っている人もいますし。
日本アニメやゲームのオタクが完全に誤解している場合もあります。
ソースがそこしかないから、日本人なら「これは歴史上の人物のデフォルメ」「これは完全なフィクション」ってわかるんですけれど、一緒に出てくるからごっちゃになっちゃっていたり。

ローザンヌ、スイスですよ。フランス語圏で、うちからはちょっと遠いなあ。いや、距離は近いんですけれど、時間かかるんですよね、ずうっと迂回して行くんで。

コメントありがとうございました。
2013.06.05 19:38 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ドミニクくんえらい子に好意を抱いてしまったんですね。
でも良い選択かも、彼女は大胆で決断は間違ってないことが多いようですから。
彼が日本に来ることを楽しみに待っています。って勝手に話を作ってはいけませんね。

でも、パパの車だって最近は韓国製、あなたのスマホの部品だって最近は韓国製や中国製、日本の陰は少しずつ薄くなってきているような。
アニメやゲームなどの分野にはまだ力を持っていますが、これもいつまで続くものやら。
日本人の感性を上手く生かして、上手い物作りが出来ていけば良いんでしょうけど。
初音ミクなんか上手くいっていると思いますが……。
2013.06.06 14:02 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

どうでしょう、日本に来ますかね?
「十二ヶ月の歌」は読み切りで書くんですが、最近は読み切りから次々話が発展するようになってしまったので、自分でも何ともいえませんね。来るとなるとミツの心労は……。

韓国製の車やスマホも増えましたね。まあ、まだ「安いだけの事はある」と、高くても日本製を選ぶ人も多いです。観光客は、いまやどこも中国人が席巻しているのですが、こちらも「日本人はマナーがいいけれど」と言ってもらえています。逆にならないように頑張ってほしいです。

アニメなどのクオリティもまだ追随を許さない状態みたいですが。ボカロの世界もそろそろ外国勢が追ってくるんでしょうか。

やっぱり日本人なので、身びいきで日本オンリーで応援してしまいます。

コメントありがとうございました。
2013.06.06 21:32 | URL | #9yMhI49k [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:https://yaotomeyu.blog.fc2.com/tb.php/588-262c42b1