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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero (6)共鳴

今回でチャプター1、出雲編が終了です。コメントやら、バトンやらでちょくちょく真樹がひどい目に遭うと開示してきましたが、それがこの章です。瑠水は東京へ旅立ち、真樹と樋水の面々はしばらくストーリーから姿を消します。

なお、ここ数日リアルライフがとても忙しく、皆様にご無沙汰をしています。多分本日の訪問は無理で、コメ返は明日になる可能性もあり大変恐縮でございますが、コメは大好きですのでいつも通りお待ちしております。


「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero」を読むこのブログではじめからまとめて読む
あらすじと登場人物


この作品は下記の作品の続編になっています。特殊な用語の説明などもここでしています。ご参考までに。
「樋水龍神縁起」本編 あらすじと登場人物



樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero
(6)共鳴


「悪いけれど、瑠水は今日もう出発してしまったわ。一足遅かったわね」
訪ねてきた真樹に、摩利子は言った。

「明日だったんじゃないんですか」
「急に予定を変更したのよ。でも、あの子が自分でそうしたのよ」
「そうですか」

「瑠水も、変だったよね」
唇を噛んでうつむく真樹を送り出したあと、一は摩利子に話しかけた。

「ケンカでもしたんじゃないの? ま、しばらく会うこともないだろうから、そのうちにシンくんの瑠水への熱も冷めるでしょう。瑠水みたいな子供じゃなくて、年相応の恋人でも見つければいいのよ」
「摩利ちゃん、あいかわらずシンくんにひどくないかい」

「一はほんとうにシンくんのシンパよねえ。彰くんには大して思い入れないみたいだけど」
「彰くんはいいんだよ。ほっておいても何でも出来るし。東大から財務省なんて、世界が違うよ。俺が肩入れするなんておこがましいじゃないか」

「できちゃった結婚になるなんて、そんなに出来た男じゃないわよ」
「俺、彰くんはどっちかという瑠水の方にご執心なのかと思っていたけど」
「私もよ。でも、早百合の執念が勝ったんでしょ。ああいう所だけは私の娘なのよねぇ」
「……摩利ちゃん」

「彰くんと早百合は普通のカップルだから、何の心配もないの。でも、瑠水はほっておけない。あの『龍の媾合』の夜の恐怖は死んでも忘れないわ。シンくんと瑠水の両方から、あの金の光が飛び回っていた。あのまま、ここ樋水に置いておいたら、早かれ遅かれ瑠水は『妹神代』にされてしまう。そんなことは絶対に阻止しなくちゃ」

「でもさ。あんなに瑠水のことを好きなシンくんがかわいそうじゃないか」
「瑠水が離れたくないと泣いたのを引き離したわけじゃないわよ。瑠水が自分で決めたんだから」

「まあね。四年間離れていたら、お互いに新しい展開があるかも知れないよな。それでも一緒になるなら何があっても一緒になるだろうし」
「瑠水だって、ここを離れて他の世界をみてみなくちゃ。樋水への執着も、単に外を知らないからかもしれないでしょ」

 真樹は諦める氣などなかった。もう東京に行ったというなら、追いかけていってもう一度氣持ちを伝えるだけだ。ひどく動揺していることは確かだった。少しは好かれているかと思っていた。キスにも応えていたのに。瑠水はさよならも言ってくれなかった。ただ、黙って旅立ってしまった。あれで終わりにしてしまうつもりなのだと思うと、傷ついた。

 自然とアクセルをふかしていた。瑠水を乗せる時には絶対にしないようなスピードだった。突然飛び出してきたリスが、真樹を我に返らせた。だが、その時には遅かった。リスを避けようとしてスリップしたYAMAHA XT500は、樫の老木にまともにぶつかり倒れた。真樹はその下に半分体をはさまれ意識を失った。

 新幹線の中で、瑠水は突然の戦慄に襲われた。真樹の叫びを感じた。昨日から何度も心の中で繰り返された彼が瑠水を呼んだ声ではなく、もっと深刻な、音にならない、暗闇の中から絞り出すような叫びだった。瑠水は、携帯電話を取り出して真樹にかけた。不通だった。震えが止まらない。不安でたまらなかった。

 下宿についてからも何度もかけたが電話は通じなかった。新幹線の中でのようなショックは二度と襲ってこなかったので、もしかしたら自分の思い過ごしかと思い逡巡した。でも、確認したかった。シンが無事ならそれでいい。でも、どうしたら確かめられる? お父さんやお母さんには言えない。あのことがわかっちゃうもの。どうしたらいい? 

 やがて瑠水は一人だけ無条件に『お願い』をきいてくれる人を思いついた。樋水龍王神社の電話番号を探した。
「次郎先生? 私、高橋瑠水です」

 次郎は瑠水からの突然の電話に驚いていたが、ちゃんと聞いてくれた。
「シンになにか起こったのか、彼が無事か知りたいんです。でも、お父さんやお母さんには頼めないの。シンは私のことを怒っているかもしれないし、私になんかに心配されたくないかもしれない。でも無事でいるとわかればそれでいいの。こんなこと頼むのは心苦しいけれど、わたし次郎先生にしか、頼める人がいないの」


 次郎はもちろん『あたらしい媛巫女さま』の『必死のお願い』をきいてくれた。内密に出雲の消防署に連絡を取り、真樹が事故を起こし出雲総合医療センターに運ばれていたことを知った。次郎が病室に駆けつけたとき、全ての処置は終わっていた。少なくとも命には別状はないということだった。

「次郎センセ……」
突然、樋水の神主が現れたことに、真樹は驚いた。

「大丈夫か」
「大丈夫じゃないみたいだ。もしかしたら脊髄損傷しているかもしれないっていわれた。一生、車いすかもしれない」
「シンくん……」

「どうして、ここに? いくら何でもまだ噂は届かないだろう?」
「瑠水ちゃんに頼まれた」

 真樹は弾かれたように次郎を見た。
「君の身に何かあったことを感じたらしい。君が無事か調べて報せてほしいと頼まれた」

 真樹は黙ってしばらく唇を噛んでいた。それから手のひらで目を覆った。次郎は何も言わなかった。瑠水の電話の様子で、二人の間に何かがあったことは予想できていた。

 しばらくすると真樹は言った。
「何事もなかった、普通に元氣でいると伝えてくれよ」

「どうしてそんな嘘を」
「今、あいつは新しい人生を踏み出した所だ。あいつの選んだ人生だ。この事故のことを報せたら、俺がこうなったことを知ったら、あいつはたぶん俺のために自分を犠牲にして戻ってくる。あいつに対する俺の氣持ちを知っているんだ。俺はあいつに罪悪感を植え付けたくない。俺を愛せないのに自己犠牲で側に来てもらいたいとも思わない。何も知らないでいるのがあいつにとって一番だ」

「でも、瑠水ちゃんは、感じたんだ。君とはそれだけ深い絆があるんだろう」
「絆? あいつは俺を拒んで去ったんだ」
「それでもだよ」

「次郎センセ。瑠水はあんたの媛巫女さまなんだろ。あいつを大切に思うなら、言わないでくれ。今はあいつの人生でとても重要な時期なんだ。あんたにもわかるだろう? あいつが選んだ未来を自由に歩ませてやってくれよ」

「でも、君はそれでいいのか。今の君には支えが必要だろう」
「もう、どうでもいいんだ。どうせこっちに未来はないんだから」
再び手のひらで目を覆う真樹に、次郎の心は締め付けられた。

「シンくん。人生には時おり、不公平で辛いことが起こる。今の君がどんな状態なのか、僕にはわかる。だけど希望を失うな。どんなときでも希望を持つんだ」
「悪いけど、あんたに言われても、はいそうですか、とは思えないね」

「僕の言葉じゃないよ、これは瑠水ちゃんの『水底の皇子様』の言葉だ」
「?」

「どんな苦難にも平然と堪える人だった。どうしてそんな風にいられるのかと訊いた若くて頼りなかった僕に、彼が教えてくれた言葉があるんだ。- Dum spiro, spero. ローマのキケロの言葉だそうだ。息をし続ける限り、つまり命ある限り、私は希望を持つ、って意味だ。僕は、辛いことがあると、いつもその彼の言葉を思い出して凌いできた。だから、君にも、この言葉が役に立つといいと思うよ」

 真樹は次郎をじっとみつめていた。次郎は真樹の希望に従って、瑠水に事故のことを報せなかった。
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Tag : 小説 連載小説

Comment

says...
真樹くん、こんなことに…(;_:)
何だか大変だけど、いつかきっと瑠水ちゃんの愛が救うんだよね???
不公平なままってことはないよね…???
夕さんがあまりにもあっさりと不幸な事件を書いてしまわれたので、ちょっとうろたえてしまいました。

さらに……次郎って、やっぱり不思議な人だなぁ。彼の人生って、つまり前世からを含めてだけれど、脇にいて見守りの立場なのに、一番紆余曲折していて一番損していて、一番引っ掻き回されているような気がするのは気のせいかしら。時々、読者に疎まれたりもしながら、でもやっぱり気の毒……
彼にも平穏が訪れる日がきますように。

でも、たった一か所だけ、笑ってしまいました。
摩利子さまの「ああいうところだけ、私の娘」…本当に、いつまでも素敵だわ。

続き、気になるなぁ……(;_:)
2013.06.18 13:12 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こんばんは、TOM-Fです。
更新、お疲れさまでした。

ありゃあ、真樹くん、これは辛いなぁ。仕事と恋って、人生の両輪という時期がありますからね。それを同時に失うと、その喪失感は半端じゃないはずです。まあ、これを乗り越えれば、得られるものはすごく大きいと思いますが。Dum Spiro Spero、この言葉が彼の心にできた穴を埋めてくれるといいんですけどね。
それにしても、瑠水ちゃんと真樹くん、繋がってますね。ああ、羨ましい……。
摩利子と一の娘に関する会話と、次郎先生の滋味のある対応など、脇役がいい仕事してますね。
次話から、瑠水ちゃんが東京でどんな成長を見せてくれるのか、それが楽しみです。
2013.06.18 16:19 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

どうでしょう。龍王は、「頑張った人を応援する」「人びとに現世の利益を与える」タイプの神様じゃないんで……。私の感覚では「春、青龍」と較べるとかなりのハッピーエンドだと。もっとも何をもって「ハッピーエンド」か、この世界に限っては、私にもわからないんですけれど。

突然の「過酷な運命」は実はよく書く方です。傾向として。子供の頃に書いていたマンガで、いきなりヒロインの運命の相手を殺したりしていたし。小学生がそんな事を書いてどうすると、いま自分でつっこんでいます。

次郎は、「夏、朱雀」を書いていた頃はかなりの脇役で、思い入れもなかったんですが、これだけ背負わされるようになってきたという事は、私のキャラの中では主役級に出世ですね。この連載が終わってあまり遠からず、春昌と次郎の二人旅の話をぽつぽつ書こうかなと思ったりしています。憎まれ役だから、同情票も集めてあげないとね(笑)

摩利子、娘にも容赦なしです。くすくす。

コメントありがとうございました。
2013.06.18 21:42 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

こういうドラマティックな回は、あまり得意じゃないけれど、これを書かないと続きが論理破綻しちゃうので嫌々書きました。といってももう二年も前の事なんですが。

この小説には、「Dum Spiro Spero」が三回出てきます。今回で二回目だからあともう一度ですね。パンドラの箱の話でもそうですが、人生が辛い事で満ちている時に、魔法の呪文で一瞬で逃げだせるような事って少ないですよね。地道に一つずつ再構築していくしかないのですが、その時に役に立つのが希望だと思うんですよね。これは、(しばらく表舞台から消えちゃいますが)そんな希望を持って生き続ける人間へのオマージュとして書いた話でもあります。

TOM-Fさんがどんなヘタレな回にも必ずいいところを見つけてくださるのに、本当に感心しています。高橋夫妻の会話は書いていて和みます。次郎も最後まで大事な役を担います。しばらく消えますが。瑠水は、これから修行ですね。

インターバルの後の東京編も、どうぞよろしくお願いします。

コメントありがとうございました。

2013.06.18 22:09 | URL | #9yMhI49k [edit]

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