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scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】北斗七星に願いをこめて - Homage to『星恋詩』

30000Hit記念リクエスト第一弾でございます。リクエストはスカイさんからいただきました。

糸と針で一つ。
あー、でも以前星恋詩を書いて下さった時のが凄く楽しかったので、あちらでもいいなあーーーー。


というわけで、お題の「糸と針」を、スカイさんの代表作『星恋詩』に絡めて書いてみました。前回のときのように二次創作ではなくて、オマージュして組み込んでみました。字数でいうと短いんですけれど、これ、氣にいっていただけるといいなあ。


北斗七星に願いをこめて - Homage to『星恋詩』

北斗七星のすぐ側の、さらさら天の川の音がさやかに聞こえる天のお宮に、三人のかわいいお姫さまが忙しく働いていました。天帝さまのお命じになった星の曼荼羅を秋の星祭りの宵までに美しくし上げるためでした。

一番年上のお姉様は、星の光をその糸紡ぎ機に織り込んで、銀色にキラキラと光る細い糸を作り出していました。真ん中のお姉様はその糸を張った織り機で、七色に光る曼荼羅をせっせと織っていました。そして妹姫はその曼荼羅を天の川のせせらぎに晒していました。すると、曼荼羅の地色が水のように透き通ってキラキラと輝くのでした。

「う~ん、そのおとぎ話はステキだけれど」
澄ちゃんは、なんともいえない声を出した。

 澄ちゃんはそつのない子だ。学内テストの度に上から八位とか十一位とか絶妙の成績を残している。これが二位や三位だと先生に「クラス委員になれ」とか「○○さんの面倒を見てやってほしい」というように頼られたりするし、私の数学や家庭科みたいに下から数えた方が早いと、親が呼び出されたりしていろいろと面倒なのだ。

「ねえ。本当に、まっすぐ横に縫うだけでいいんだよ、麻衣ちゃん」
澄ちゃんの指摘通り、私の手元にある濃紺の布の縁取りは激しく曲がっている。自分でもわからない。どうしてこんなに不器用なんだろう。私の手元を見ながらてきぱきと縫っている澄ちゃんの手元の布の方は、家庭科の実習として提出したらさぞいい成績がもらえるだろう、ぴっちりとしたかがり縫いになっていた。

「いたっ」
私は、これで三度めに自分の指を針山にしてしまった衝撃に呻く。
「ちょっと、大丈夫、麻衣ちゃんったら」

 全部澄ちゃんが縫ってくれたら、売っても大丈夫なくらい素敵な作品になる事は間違いない。でも、家庭科の作品ならまだしも(いや、それもダメだけど)、これだけは私は見ているだけってわけにはいかない。だって、私から星野君へのプレゼントなんだもの。

「アイデアは悪くないけれど、まさか麻衣ちゃんがここまで縫い物が苦手だとは夢にも思わなかったよ」
私が得意な、少なくとも澄ちゃんが感心してくれる程度には得意なイラストで、私は濃紺の絹の上に三人のお姫様とそれを見つめる星売りの姿を描いた。星売りは、とある(スカイさんっていう方だけれど)ブログで発表されている『星恋詩』という作品の主人公。星野君が教えてくれて以来、私も大ファンになってしまった作品だ。

 今日は星野君のお誕生日。そして、秋の星祭り。だから、私はどうしても特別に心のこもった贈り物をしたかったのだ。無事に絵は描けたのだけれど、クッションにするためには縫わなくてはならない事に氣がついたのは昨日だった。頼れるのは澄ちゃんしかいなかった。放課後の教室で半泣きになりながら、慣れない針仕事をちくちくとする。澄ちゃんの名誉のために言っておくと、私の縫った分の五倍ちかくをプロのような美しさで仕上げてくれているのは澄ちゃんなのだ。

「絹ってね。昔、お侍さんが矢をよけるために使ったくらい丈夫な布なのよ。麻衣ちゃんが縫うにはちょっとハードルが高かったね」
澄ちゃん。正論だけれど、もうどうしようもないよぅ。

 澄ちゃんは優しい。星野君も優しい。この二人がいなかったら、たぶん私の高校生活はかなり惨めになった事だろう。私は、いつも物語や絵の事を考えていてぼーっとしている。クラスには「どんくさい子」といって邪険にする人たちがいる。先生が「班を作ってください」というときも、「入れてください」といえなくてもじもじしてしまう。でも、澄ちゃんや星野君が氣付いてくれて呼んでくれる。女の子の澄ちゃんはともかく、星野君は男の子なので、私なんかに声をかけると他の子たちに「ひゅーひゅー」と言われてしまう。そのことで私がオロオロしていると、まったく歯牙にもかけずに「がはは」と笑った。

「星野君は競争率高いけど、麻衣ちゃんみたいにとことん頼りない子なら、かえってチャンスがあると思うよ」
澄ちゃんのいい方は身もふたもない。

 べつに星野君の彼女にしてもらおうなんて大それた野望を持っているわけじゃない。ただ、伝えたいだけ。『星恋詩』いいよねって。いつもありがとうって。そして、お誕生日、おめでとうって。

 クッションを入れて澄ちゃんがほぼ仕上げてくれた分と合わせて、閉じていく。
「いたっ」
「ちょっと、麻衣ちゃん、大丈夫?」
「うん、ごめんね、澄ちゃん。澄ちゃんも早く星祭りに行きたいよね」

 澄ちゃんは首を振った。
「行くわけないでしょ。今夜はバルス祭りだからテレビの前で待機」
それからウィンクして声を顰めた。
「ほら、さっきからドアの陰で星野君が心配そうに見ているよ。さっさと糸止めして持っていきなよ」

 ええっ。嘘っ。
「な、なんで星野君がここに?」
「麻衣ちゃんが私に頼んだときの声がでかすぎたのよ。星野君、耳ダンボだったもの。大体、待ち合わせもしないで、どうやって星祭りで渡すつもりだったのよ」
う……。確かに。

 澄ちゃんは「じゃーね」と言って星野君の肩を叩いて出て行く。私は困って終わっていない運針を見た。こんなに曲がっているからやり直そうと思っていたんだけれど。あれ。北斗七星の形になってる。悪くないか。縫うの下手くそなのが私なんだから、これで許してもらおう。

「星野君。これ、お誕生日おめでとう」
クッションを手渡した。たぶん『星恋詩』の星売り以外は何がなんだかさっぱりわからないだろうな。星野君はちょっと笑った。
「ありがとう。糸と針がまだ刺さってる。これ、巨大な針山?」

 私は真っ赤になって、糸を始末してはさみで切った。星野君は「おっ。星売りだあ」と嬉しそうに笑った。すぐにわかってくれたんだ。

 それから、私たちは星祭りに行った。この世を彷徨っている星売りも、もしかしたら来ているかもしれないよ、そう星野君が言った。天のお宮の三人のお姫様が笑っている声が聞こえたような氣がした。


(初出:2013年9月 書き下ろし)
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Tag : 小説 読み切り小説 リクエスト キリ番リクエスト

Comment

says...
 こんばんは。
可愛いですねーーー 頑張るんだよと応援したくなるような いじらしさ。

八少女さんの描き出す このタイプの女性 可愛くいじらしい 一生懸命な感じの女性も魅力的ですね。
とても 可愛いです。
もう一方の 華やかで しなやかな 自身で道を切り開こうとする女性とは また違った
リアルな 隣りのクラスにでもいそうな感じが 身近でいいですね。

ほんとに… 多彩なタイプを 描き出されますね 圧倒されます。

透明な夜空を感じさせる 素敵なお話でした 楽しませて頂きました。
2013.09.15 13:06 | URL | #- [edit]
says...
あぁ、とてもよかったです。
自分を見ているようで、でも星野君みたいな人は居なくて、憧れて……。
でも麻衣ちゃん、積極的に行動していますね。
この物語に入り込めただけでも嬉しかったです。
とても幸せな気持ちになりました。
「星恋歌」のお陰でしょうか?
スカイさん、夕さん感謝です。
2013.09.15 13:54 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

わあー早いですね!!
なんだかもう、始終ニヤニヤしてしまって!!!
読んでいる時の顔、誰かに見られたら通報されてしまう……ッ
それから、麻衣ちゃん、可愛いなあ……!
澄ちゃん、バルス祭り…………(笑)
ラピュタですね。私もバルスの所だけ(何故か)見ました。

夕さんの小説の会話って、本当にリアルで、素敵です。
羨ましい!

好きな人に渡すプレゼントに、描いてもらえるような!
そんな小説を書きたいです。
ファンだって、今はいなくてもそのうち……!
なんて。

とても楽しかったです!!!
こういう取り込み方もあるのですね!
多才だなあ……
これからしばらく、時々覗きに来てはニヤニヤと……

ありがとうございました!!!
2013.09.15 14:51 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

「糸と針」
このお題がですね。麻衣なみに裁縫の不得意な私には衝撃のお題でして。このヘタレヒロインが出てきたのはそれが原因だったりします。

スカイさんとの『星恋詩』のイメージがぶち壊しになっていないか、ちょっと心配でしたが、透明な夜空と言っていただけてちょっとほっとしました。高校時代は遥か昔なので、もう忘れているかも……。

コメントありがとうございました。
2013.09.15 18:10 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。
台風ですか。シーズンだなあ。怪我などをしないように、お氣をつけて。

この「家庭科が下から数えた方が早い」は、私の投影です。本当にひどかったんですよ。今でも、やるのはボタンつけまで。クラスで自分から輪に入っていきにくいのも、憶えがありまして、星野君はもちろん澄ちゃんみたいなクラスメイトもいなかったので、えらく違いましたね(笑)サキさんに入り込んでいただけてとても嬉しいです。

『星恋詩』を無理矢理に近い形で組み込んだのですが、そのおかげであちらの世界をご存知の方には一段階透明度が増すような、そういう錯覚がおきてくれるかもと、ちょっと姑息な事を考えております。

麻衣は、これで告白になるなんてそんな大それた事は夢にも思っていませんが、こういう事をするとバレバレになるという事実にまったく氣がついていない間抜けです(笑)星野君、まんざらでもない感じなんでいいという事にしておきましょう。

コメントありがとうございました。


2013.09.15 18:18 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

お氣に召していただけましたか。それはよかった。ホッ。

かたや星祭りで、かたやバルス祭り。って、私は参加した事ないんですが(笑)
「ひゅーひゅー」いうクラスメイトをはじめとして、邪魔者はいない方がいいので、こうしました。

『星恋詩』は素敵ですからね〜。イラストもとてもいいし。クッションにしても素敵だろうなあ。ただ、曲がった運針がなんですが。
星野君は乙女座で、『星恋詩』のファンとしてはぴったりな感じですよね。

「糸と針」は、裁縫の大変不得意な私には、難しいお題でしたが挑戦してよかったです。
リクエストとコメント、ありがとうございました!
2013.09.15 18:24 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは、TOM-Fです。

うわぁ、純度と糖度の高いお話に、ちょっとキュンってなりました。
澄ちゃん、ちゃっかりしてるようでバルス祭りに参加するあたり、現代っ子という感じなのでしょうか。三人組のなかでは、頼られるお姉さんですね。
麻衣ちゃんの純朴で可愛らしい一生懸命さに、星野くんも好感を持っているのかな。この二人、くっついたらいいカップルになりそうですねぇ。
ともすれば、三角関係になっちゃいそうな組み合わせなのに、ドロドロ感ゼロの爽やかなお話に仕上げてしまえる、八少女夕さんの懐の深さに感心しました。
2013.09.16 10:40 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

おお、スイートな高校生話の権威、TOM-Fさんにきゅんとなっていただけて光栄です。

高校生を書く時は、大昔の自分の時の事をイメージして書くので、現在のもっと進んでいるのが当たり前の高校生から見ると「なんだこりゃ」かもしれません。

麻衣はただのヘタレですが、ここまでひどいと星野君も澄ちゃんも放っておけないようです。どこにも書いていないのですが、「美少女」では全くありませんので、星野君がぐらっと来るとしたら「可哀想ってのは惚れたってことよ」だけでしょう。澄ちゃんはそつなく彼氏作ってるでしょう、たぶん。

バルス祭り、ツィッターもやってないし、日本にもいないので実態がいまいちわからないのですが、祭りつながりで何となく入れてみました。おかしくなかったかな?

30000Hit記念、引き続き頑張ります。

コメントありがとうございました。
2013.09.16 19:26 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
本当に純度の高い、可愛らしいお話でした。
この3人のバランスが、絶妙にいいですね。
しっかりものの澄ちゃん。おっとりしてて、要領は悪いけど、愛され体質の麻衣ちゃん。そんな麻衣ちゃんが気になる星野くん。
やっぱり男の子って、完璧な女の子よりも、どこか抜けてて、守ってやりたい感じの女の子に、目が行っちゃうんでしょうね。
デキル女性に未婚が多いのは、そのへんかも。
なんて、そんなことを思ってしまいました。
この3人の20年後とかも、いろいろ想像して楽しめる、ステキな短編でした^^
2013.09.17 00:08 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
今回は初々しいお話ですね
うらやましい///
同じヘタレでもかわいげがあれば…
2013.09.17 10:15 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

純度高しとみなさんにおっしゃっていただけるのは意外でした。イメージをスカイさんの『星恋詩』に合わせたおかげでしょうか。麻衣の抜け方は「どこか」などという可愛いものではありませんが、「捨てる神あれば拾う神あり」なんでしょうかね。

確かに、何もかも自分でシャキシャキできてしまう女の子は、女の私からは憧れの存在ですが、男性が選ぶのは守ってあげたくなるようなタイプの方が多いような氣がします。私の友人にも「こんなに素敵な女性は滅多にいない」という方が独身というパターンは多いですね。まあ、男性を必要となさらないってこともあるのかもしれませんけれど。

この三人の二十年後、どんなでしょうね。そのうちに続編でも……(こうやって片付けられない風呂敷があちこちに広がっていく……)

コメントありがとうございました。
2013.09.17 18:50 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

いや、ビジュアル的にはダメ子さんの方が100倍可愛いと思います(笑)
星祭りで、焼きそばだけ食べて帰って来たんじゃないかな。
可愛い女の子は、やっぱり綿飴をたべないとね。

コメントありがとうございました。
2013.09.17 18:56 | URL | #9yMhI49k [edit]

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