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Posted by 八少女 夕

【小説】君に捧げるメロディ — Featuring『ダメ子の鬱』

scriviamo!


「scriviamo! 2014」の第二弾です。ダメ子さんは、うちのオリキャラ結城拓人と園城真耶を「ダメ子の鬱」に出演させてくださいました。ありがとうございます!

ダメ子さんの書いてくださったマンガ『コラボとか』

ダメ子さんの「ダメ子の鬱」はちょっとネガティブな高校生ダメ子さんを中心に繰り広げられる日常を描く人氣マンガです。かわいらしい絵柄と登場人物たちの強烈なキャラ、それに短いセリフで胸のど真ん中を突くストーリーがクセになります。この世界に混ぜてもらえるなんて、ひゃっほう!

お返しは、この設定を丸々いただきまして、掌編を書きました。最後の方に拓人がどの女学生にぐらっときたかが出てきますよ。そして、出てきた音楽の方は、追記にて。

そして、「拓人と真耶って誰?」って方もいらっしゃいますよね。ええと、大道芸人たち Artistas callejeros樋水龍神縁起 Dum Spiro Speroに出てくるサブキャラなんですが、大道芸人たち 外伝なんかにもよく出てくるし、かといっていきなりこれ全部読んでから読めというわけにはいかないですよね。この辺にまとめてあります。ま、読まなくてもわかるかな。



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君に捧げるメロディ — Featuring『ダメ子の鬱』
——Special thanks to Dameko-san


 門松や正月飾りが片付けられると、街は急に物足りなくなる。クリスマス、年末とコンサートに終われ、親しい友人や家族とシャンパンで祝った年明けも過ぎ、忙しい時間が飛ぶように過ぎた後、演奏家たちにはつかの間の休息が許される。そう、二日、三日。そしてまた、リハーサルと本番に追われる日が追いかけてくる。

「それに、また撮影だろ?」
拓人が笑った。そう、撮影。初夏の新色、恋の予感だったかしら。口紅の新製品のポスターとCM撮影は明後日だ。まだ冬なんだけれど。それから、チャリティー番組の密着取材は拓人と一緒だ。

 昨年は忙しくともウィーンのニューイヤーコンサートに行く時間もあったが、今年はそれどころではなかったので、日本にいた。スケジュールが合わず卒業以来出たことのなかった同窓会に、今年は偶然二人とも出られそうだったので、拓人と一緒に参加することにしたのだ。二人で来るならぜひ演奏してほしいと頼まれたので、真耶はヴィオラを持ってくることになった。

「それにしても、まだ早すぎるよ。夕方から出て来ればよかったな」
拓人が退屈した顔で言う。久しぶりに街に出るのだから早めにと言い出したのはそっちなのにと思ったが、退屈なのは真耶も同じだった。クリスマスと正月の商戦で疲れきってしまったのか、街はひっそりとして投げ売りになったセールのワゴン以外に見るものもなかった。二人はやけっぱちになって、あたりを闇雲に歩いたので、少々疲れてもいた。

「ずいぶん寒いわね。どこか時間をつぶす所を探さないと」
真耶がふと見ると、拓人は高校生たちを見ていた。
「地元の女の子たち、発見! 可愛いぞ」
「はいはい。またはじまった」

 それは高校の正門前で、大きな看板がかかっている横だった。
「文化芸術鑑賞会 クラッシック音楽のひと時……ねえ」
「どうやら、あの子たちはこの高校の生徒みたいだね。なかなか悪くないんじゃないか?」
「こんな所でナンパしようってわけ? 児童福祉法違反で捕まるわよ」

「違うよ。悪くないって言ったのは、暇つぶしの方。この鑑賞会、二階席は一般にも公開しているらしいから」
「それは、失礼。無料のコンサートね。誰が演奏して、どんな曲目なのかによるわよね。あら、あの子なんていいじゃない、ちょっと訊いてくるわ」
そういうと、真耶は近くにいた男子生徒の方につかつかと歩み寄った。

 拓人は肩をすくめた。
「人のことを言えるか。一番いい男をわざわざ選びやがって。お前こそ、捕まるぞ」

 男子生徒は楽器らしきものを持っている真耶を見て演奏者の一人かと思ったようだったが、彼女はそれを否定し、首尾よくプログラムを手にして戻ってきた。それを見て拓人は少し意外そうに訊いた。
「なんだ、もういいのか?」
「いいのかって、出演者を確かめただけじゃない。あなたと一緒にしないでよ。相手は子供だし。それにああいうタイプはあなた一人で十分よ」

「それはどうも。でも、あの子、かなりの人気者みたいだぞ。お前と話しているだけで心配そうに見ている女の子たちがあんなに……」
「あらら、そうみたいね。それはそうと、この出演者、見てよ。こんなところで再会とはね」

「ん? げげ。このバリトンの田代裕幸って、あの……」
十年近く前だがつきあっていた真耶を振って去った男の名前を見て拓人は苦笑した。
「それにこのピアニストの名前も見て。沢口純……」
「誰だそれ?」
「また忘れたの? 以前わが家のパーティであなたに喧嘩を売ったあげく泥酔して帰っちゃった人でしょ」
「あ? あいつか。そりゃ、すごい組み合わせだ。どうする、寄ってく?」
「あれ以来あの人たちには全然会っていなかったもの、今どんな音を出しているのか氣にならない?」
「はいはい。じゃ、行きますか」

 二人が話している所に、帽子をかぶった女生徒が近づいてきた。
「あ、あの、結城拓人さんに園城真耶さんですよね。サインいただいてもいいですか?」

「え。ちよちゃん、この人たち知っているの?」
遠巻きにしていた女の子たちも近づいてきた。
「え。もちろん。二人ともクラッシック界のスターだもの。それにほら、『冬のリップ・マジック』のコマーシャルにも……」
「ええ! あ、本当だ。あの人だ~」

 よく知らなくても有名人だと聞けばサインをもらいたがる生徒たちに苦笑して二人は肩をすくめた。
「こんなところをまたあの沢口が見たら逆上するだろうな」
「さあ、どうかしらね」

 多くの生徒は参加の強制されるクラッシック音楽鑑賞会を、つまらないと思い逃げだしたいと思っていたに違いない。けれど、観客席に(よく知らないながらも)その業界での有名人が来たというだけで生徒たちの会場に行く足並みは軽やかになった。生徒のいる一階席はきちんと定刻にいっぱいになり、一般に開放された二階席もそれなりに埋まった。

 ところが、肝心の観賞会がなかなか始まらない。困ったように教師が走り回る音が聞こえて、生徒たちも浮き足立ってきた。

 前方で教師と話をしていたのは先ほど真耶が話しかけた男子生徒とサインを最初にもらいに来たちよちゃんと呼ばれていた少女、それから数人の友人たちのようだった。それから教師に向かって二階席にいる拓人と真耶の方を示した。

 それから、彼らが一緒に二階席にやってきて、教師が頭を下げた。
「はじめまして。お二人のお名前はよく存じ上げております。いらしていただき大変光栄です。私はこの高校で音楽教師をしております山田と申します。今回の観賞会の責任者なのですが、実は大変困った問題が持ち上がりまして」
真耶と拓人は顔を見合わせた。それから続きを促した。

「実は、田代さんと沢口さんは本日大阪からこの会場に直接駆けつけてくださる予定だったのですが、新幹線が停まっていて運転再開のめどが立たないでいるというのです。これだけ会場も埋まっているのですが、お詫びして中止にしようと話していた所、この生徒たちがどうしてもあなた方の演奏を一曲でも聴きたいと申しまして。突然で大変失礼なので、お断りになられるのを承知で、こうして参ったのですが」

「ほら、さっき『聴かせられなくて残念よ』って、言っていたから、もしかしたら弾いてくれるんじゃないかなって」
「茂手くん!」
教師が慌てて男子生徒を制したが、真耶は笑って言った。
「私はかまわないわよ。でも、拓人が伴奏してくれるかは……」
「するする。可愛い女の子たちの点数稼ぎたいし」

 生徒たちは大歓声をあげた。真耶はヴィオラを持ち上げた。
「では、お引き受けしますわ。今夜演奏する予定で用意してきた曲でいいでしょうか」
「もちろんです」
山田はホッとした様子を隠せなかった。

 同窓会のために準備してきたのはシューベルトの「アルペジオーネ・ソナタ」。アルペジオーネという六弦の古楽器のためのソナタだが、チェロやヴィオラで演奏される。拓人と真耶が二ヶ月に一度開催しているミニ・コンサートでも演奏することになっているので、広いホールで演奏するのは二人にとっても悪いことではなかった。哀愁あふれる美しい旋律で、コンサート受けはいい曲だが、普段クラッシック音楽に馴染みのない高校生たちには敷居が高い。それでクラッシック音楽に慣れさせるために、まずはフォーレの「夢のあとに」で反応を見、続いてクライスラーの「美しきロスマリン」を弾いた。どちらもCMなどでよく使われるので馴染みがあるはずだった。それからシューベルトを演奏したところ、生徒たちも慣れたようで熱心に聴いていた。

「悪くない反応だったな」
短い時間だったが、大きな拍手をもらい、主に女の子たちにサインをせがまれて拓人はかなりご機嫌だった。真耶もまんざらでもない様子で、サインをしたり楽器に興味を持った生徒たちと話をしてから、別れを言って同窓会の会場へと向かっていた。

「田代君と沢口氏に会えなかったのは残念だったけれど、楽しかったわ。あなたはなおさらでしょう? 好みの女の子もいたみたいだしね」
「ん? わかった? さて、どの子でしょう。一、ツインテールで胸の大きかった子。二、お前が例の茂手くんと話していた時に泣きそうな顔をしていた茶髪の子。三、僕たちのことを始めから知っていたちよちゃん」

 拓人が茶化して訊いてきたので、真耶はにっこりと笑った。
「誤摩化してもダメよ。あなたのお目当てはね。その三人じゃなくて、みんなの後ろにいた、おかっぱ頭でピンクのマフラーの子」
「げっ。よく氣付いたな」
「当然でしょ。あなたの好みなんてお見通しよ。あの子、目もくりくりしていて、けっこう可愛いのに、いつも自信なさそうに下を向いていて、あなたのサインも欲しそうだったのにあきらめていたし」
「そ。あの子のために頑張って弾いたんだ。もしサインをねだりに来たら、絶対に名前を訊こうと思っていたのにな」

 真耶はしょうもないという風に頭を振ると、肩をすくめる拓人を急がせて同窓会の会場であるホテルへと入っていった。

(初出:2014年1月 書き下ろし)

追記


Franz SCHUBERT: Sonata for Cello and Piano, in A minor D.821 (1824) "Arpeggione"
ヴィオラとピアノではいい動画が見つからなかったので、チェロとピアノ版です。


こちらは今井信子さんのヴィオラの動画。「夢のあとに」と「美しきロスマリン」はこちら。
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Tag : 小説 読み切り小説 コラボ

Comment

says...
見事なまでの再現+α
思ってたとおりの雰囲気で
ドキドキわくわくしながら読ませていただきました

同窓会で来てたんですね
ちよちゃんはさり気にいろんなことに詳しいなあ
さらにまさか二人の演奏を聴けることになるなんて

(当日夜布団の中で)
演奏すごかったな
私もやっぱりサインもらえばよかったかな…
でも他にたくさん人がいたし…
そういえばちよちゃんは他の子より丁寧なサインをもらってたっけ…
ちよちゃんみたいな子が好きなのかな…
2014.01.15 10:00 | URL | #- [edit]
says...
ダメ子さんの漫画の方から入ったのですが、
小説になって、
さらにダメ子さんのコメントに繋がって。

どれも素晴らしかったです!Bravi !
2014.01.15 12:30 | URL | #41Gd1xPo [edit]
says...
こんばんは。

設定をまるまるいただきましたので、ほとんど何もしていないのですが、楽しかったです。
二人とも若い子たちのよりどりみどりで嬉しかったようです。
しっかり楽器を持たせてくださったので、これは弾くしかないでしょうということで(笑)

よく知らない所をほっつき歩いているのが不自然にならないように同窓会にしてみました。ダメ子さんの通っている高校がどの辺にあるのかわかんなかったのですが、これなら不自然じゃないかなと思って。

ちよちゃんやモテ君を勝手に動かしましたが、まあ、このくらいなら許容範囲ですよね?

当日夜のダメ子さんらしい感想、楽しみました。

(中の人へ)
女たらしが無垢なダメ子さんにロックオンしています。大変危険なので、氣をつけてあげてくださいませ。

ご参加、本当にありがとうございました!
2014.01.15 20:30 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。そして、はじめまして。

ようこそscrivo ergo sumへ。

ダメ子さんは去年も参加してくださって、今回は「ダメ鬱」本編に出してくださって感激なのです。
拓人は超女たらしなのですが、ダメ子さんタイプには弱くて、ほっておくと本氣になってしまうのです。
でも、ダメ子さんは幸い全然氣がついていないみたいです。
30過ぎの女たらしにロックオンされても面倒なだけですからね。

ダメ子さんが、サインの件もコメントでちゃんと拾ってくださってとても嬉しかったです。

コメントありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いします。
2014.01.15 20:40 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
はじめまして。
いつも楽しく拝見しております。

今回のコラボはすごく楽しく拝読させていただきました。
どっちも魅力的で楽しかったですね。

またゆっくり読ませていただきます。
では失礼いたします。
2014.01.16 00:46 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。そして、こちらでは初めまして。

いつも無言訪問、失礼いたしております。
ダメ子さんの所をはじめとするブログのお友だちのコメ欄で、前々からいい方だなあと思っておりまして、シュナイダーさん、紗那さんとのオフ会の記事をきっかけにお邪魔させていただくようになりました。初コメ恐怖症で読む一方、先にご挨拶をいただいてしまい恐縮です。

そして、読んでいただけたのですね。ありがとうございます。ダメ子さんにすっかりお膳立てしていただいたので、楽な上にとても楽しかったです。ブログならではの楽しみ方ですね。

どうぞこれからもよろしくお願いいたします。
コメントありがとうございました。
2014.01.16 17:21 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
拓人の(ある意味)マイペースと真耶の毒舌会話。
その軽妙なテンポと、ほんと、2人はどうなのよってやっぱり突っ込みを入れたくなるあたり、相変わらずで微笑ましい。
ダメ子さんの漫画も面白かったし、まさにそのシーンで交わされていた会話と、その先の顛末、そしてやっぱり素敵な音楽に繋がる辺り、さすが夕さんです。
これこそコラボって感じですね。
しかも、拓人の好み、そうそう、そうだわ。ダメ子ちゃん、気をつけて!!(一通り笑えました(^^))
素敵なコラボ作品、ありがとうございました(*^_^*)
2014.01.17 23:44 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こんにちは。

この辺りは既にキャラが確定しているので、想定外の驚きはないでしょうね。
この二人はずっとこんな感じかな。「大道芸人たち」の第二部の連載が始まるまでは……。もっとも、始まってもあまり変わらないかも。

コラボだから若干自由度は減るんですが、その分、自分の世界のキャラだけでは出来ない世界にも入り込めてとても楽しいですね。どんな状況ならこんなことをするかなと想像すると、どんどん出てきたりして。

ダメ子さんは、まさに拓人の好みのど真ん中っぽい。でも、瑠水と違ってJKですからねぇ。手を出すのはまずいでしょう(笑)本氣になられても、ダメ子さんも中の人も迷惑だろうし。

コメントありがとうございました。
2014.01.18 15:29 | URL | #9yMhI49k [edit]

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