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Posted by 八少女 夕

【小説】午睡から醒めて —「タンスの上の俺様 2014」

scriviamo!


scriviamo!の第十四弾です。

篠原藍樹さんは、 Stellaでおなじみの異世界ファンタジー「アプリ・デイズ」の後日談を書いてくださいました。本当にありがとうございます。


篠原藍樹さんの書いてくださった掌編 『外伝アプリ企画参加用(?)』

篠原藍樹さんは、月間Stellaの発起人のお一人で、そちらでも大変お世話になっている高校生の小説書きブロガーさんです。いや、そろそろ高校卒業でしょうか。代表作の『アプリ・デイズ』は、ものすごい設定で唸りました。登場人物たちが高校などの日常世界を離れて戦うというところまでは他の小説でもあるでしょうが、未来小説らしくそれぞれの人間にアプリをインストールできる事になっていて、その世界観がワープロ時代に育った私には想像もできないデジタルな世界になっていまして。最近の高校生の脳みそはこんな風になっているのか! と、驚愕したものでした。

今回、書いてくださったのは、その「アプリ・デイズ」の後日談です。本編を離れて、ほのぼのとしたいい感じの主人公たちにほんわかさせていただきました。お返しをどうしようかと思いましたが、「アプリ・デイズ」の二次創作はどう考えても無理なので、トリビュート掌編にさせていただきました。藍樹さんの書いてくださった作品そのものがネタバレを含んでいますので、そのモチーフを使わせていただいています。本編をこれから読むおつもりの方はお氣をつけ下さい。登場するオリキャラがあまりにもパンチが弱いので、去年のscriviamo!の一番人氣キャラを配置しました。



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午睡から醒めて —「タンスの上の俺様 2014」
(Homage to『Appli Days』)

——Special thanks to Shinohara Aiki-SAN

 日曜日の午後、僕はほんの少しだけソファに横になる。月曜日から金曜日までぎっしりと働き、土曜日は莉絵につきあって郊外のショッピングセンターまで買い出しにいく。様々な用事をしてくたくただ。のんびりと昼寝を楽しむこの時間だけは莉絵も文句は言わない。これはまずまず幸せと言ってもいいだろう。

 夢の中では、白い長い髪の儚げな少女がそっと呼びかけていた。
「ごめんね……。わたし、どうしてもリュウ君ともう一度逢いたかった……」
オルナ……。僕は何度でも君の事を許すよ。大好きなんだ、君の事を……。美少女は僕の腕の中で震えている。その柔らかい髪は甘い香りとともに僕の鼻腔をくすぐり……。くすぐり……、く、くすぐったい……、あれ?

「はいはい。起きてよ~」
眼を開けると、顔のすぐ側に茶色い毛玉があった。僕はぎょっとしてソファーの背に飛び乗った。そして、その毛の塊をよく見た。仔猫だ。茶色のトラだ。しかも形相が悪い。ガンを付けている、というのが正しい表現かもしれない。オルナちゃんじゃない!

 僕は高校生の時にあの名作「アプリ・デイズ」に出会った。篠原藍樹さんという高校生がブログで連載していた小説だ。高校生が書いたとは思えないほど完成された世界観、手に汗を握るストーリー、そして、永遠のヒロイン、オルナ・テトラ……。読みながら、僕は主人公の遠雁隆永に入り込み、そして主人公がしていないのにオルナに恋をした。儚くて壊れそうな白い美少女。

 そして、僕は大学に進み、就職してから直に僕自身のオルナと出会った……はずだった。それがいま僕の目の前で、目つきの悪い仔猫を差し出している血色のいい莉絵だ。出会った時は、オルナちゃんの再来かと思うほど色が白く、はかなげで明日の命すら知れないと思われた。それが今は見る影も無い。病院に行かないでもいいのは、悪い事じゃないが。

「かわいいでしょ?」
莉絵はにっこりと微笑む。か、かわいい? 僕はその仔猫に睨まれているんだが……。
「連れて帰ってください、って箱に入っていたの。とてもそのままにしておけなくって」
要するに捨て猫か!

「ニコラって名前にしたから」
世帯主で、一家の大黒柱である僕の意見も聞かずに、この猫を飼う事だけでなく名前まで決定したらしい。しかも、ニコラなんてかわいい名前を付けてどうするんだ! こんなふてぶてしい猫、見た事ないぞ。まだ手のひらサイズなのに、みゃあと可愛く鳴きもせずに、ひたすらこれからお世話になる家の主人を睨みつけている。

 莉絵にはこの猫がとても可愛く見えるらしかった。僕がかなり氣にいっていた、パンのおまけでついてきたシリアルボウルをさっと取り出すと、ミルクを入れてやり仔猫に飲ませてやっていた。小さい生きものに優しい所は、莉絵の利点だ。

 莉絵が現われた時、僕は運命だと思った。ある時、アパートの郵便受けの前でウロウロしている美少女がいたのだ。そして、僕が郵便受けを開けようとすると「あ」と言った。

「え?」
「あ、あの……。私の指輪が、そこに入ってしまったんです」
「え?」

 その時は、どうやったら見ず知らずの人間の郵便受けに指輪が入るシチュエーションになるのか、疑問を持って良さそうなものだったが、僕にはオルナちゃんが突然現れたようにしか思えなかった。実際に、莉絵は身体が弱く、そのために痩せ細り透き通るように白い肌をしていた。もちろん髪は黒かったけれど。僕は指輪を渡して、それから、自己紹介をして、デートにこぎ着けた。

 莉絵が入院して、手術をしないと助からないという話を聞いた時には、彼女の命を助けるためには何でもすると叫んだ。莉絵にはいくつもの臓器疾患があって、特にその時は至急腎臓の移植をしなくては助からないと言われていた。そして、奇跡が起こった、と皆が思った。つき合っていたこの僕が、20万人に一人しかいないといわれている適合タイプだったからだ。もちろん僕は愛する莉絵、僕のオルナちゃんのために腎臓を一つ提供し、手術は成功した。彼女はすっかり健康になり、僕たちは結婚した。

 莉絵がはじめから腎臓のために僕に近づいたことを知ったのは、結婚してからだった。彼女はスポーツもできないし、塾にも行かせてもらえない、ずっと自分の部屋にこもった生活をしてきた。コンピュータを操るスキルがそれで上がってしまい、ハッカーのような事までしていたらしい。僕の朝食を作ってくれる氣はさらさらない彼女だけれど、国の中央セクションにある健康診断データを閲覧するなんて高校生の頃から朝飯前だったらしい。そして、最適合の僕の存在を知ると、わざわざアパートにやってきて指輪を郵便受けに入れて僕を待っていたのだ。

 まあ、でも、そんなに悪い事じゃなかった。彼女のいなかった僕が、夢にまで見たオルナちゃんの再来かと思うばかりの儚げな美少女の命を救い、結婚する事になったんだから。それに、「アプリ・デイズ」の主人公と違って、命を狙われたってわけじゃないからな。許すとか許さないとかいうほど悪い事をされたわけじゃないよな。

 その後はめでたしめでたしと言っていいのかわからない。片方の腎臓を摘出して以来、どうも無理がきかなくなって痩せる一方の僕とは対照的に、莉絵は血色が良くなり、どんどんふくよかになった。毎日、昼ドラを見ながら五食は食べているらしい。まだ、心臓には問題があるらしいのに、いいのか? もっとも心臓ばかりは脳死の提供者がないかぎり手術できないから、莉絵は手術をあきらめているみたいだ。僕は彼女が不憫なので、パートに行かせたりしないで家でゆっくりできるようにしている。

 どんどん食べて体重を増やしているのは莉絵だけではなかった。そのまま我が家に居着いたネコは、僕の大事なボウルを二つも占領して着実に大きくなってきている。莉絵はニコラと呼び続けているが、その名前に反応したことは一度もない。なんともまあ、態度のでかい仔猫で、いつもガンをつけているような目つきをしている。仔猫ならかわいらしく身体をくねらせたりすればいいものをそれもしない。たまに前足で顔を洗っている様子などはさすがに可愛いと思うが、それに見とれていると「何を見ているんだ」とでもいいたげにキッととこちらを睨む。

Oresama

 エサが欲しい時もかわいらしくにゃあにゃあ言ったりはしない。きちっと前足を揃えてボウルの前に座り、僕の顔を見る。その様子を見ると、急に悪い事をしたような氣になる。
「す、すみません。氣がつきませんで」
俺はあわててキッチンの戸棚に向かい、エサを用意するのだった。

「ニコラって感じじゃ絶対にないよなあ。なんでお前はそんなに高飛車なんだ。俺様って感じだぞ」
そういうと、ネコはこちらを向いた。今まで何度ニコラと呼んでも無視されていたので、その反応にはびっくりした。

「なんだよ。俺様っていわれて氣分を害したのか?」
やはり俺様というと反応する。変な猫だ。それ以来、僕はこいつを俺様ネコと秘かに呼ぶようになった。

 そんな日曜日の午後だ。僕はつかの間の午睡を楽しみ、莉絵はリビングでこたつに寝そべりながらテレビを観ている。そして、俺様ネコは……、やべっ。コンピュータの前で遊んでいる。データでも消されたら大変だ。
「おいおい、そこはまずいから降りてくれよ」

 画面には30近いブラウザの窓が開いていて、一番手前の入力フォームには意味不明の文字が大量に入力されていた。やっとの事で俺様ネコをキーボードの上から追い払うと、僕は椅子に座ってデスクトップを片付けだした。危ない、危ない。次に昼寝する前にはPCの電源を落とさないとダメだな。だから動物なんか飼うのは……。

 開いていたブラウザは、どうやら僕や莉絵のブラウザ閲覧履歴が表示されているようだった。莉絵のヤツ、またこんなギャル服の通販を。げっ、エッチなサイトの履歴が残ってた! 莉絵に発見されなくてよかった。僕はあわてて一つひとつウィンドウを閉じていった。そして、あるページで手が止まった。

 脳死時における臓器提供意思表示? 表示されているのは、僕が脳死になったら全ての臓器を提供するって申請をした確認画面。

(そ、そんな……。いつの間に)

 臓器提供意思表示は生体認証キーによる本人確認が大前提だ。つまり、僕自身が入力するか、もしくはこのコンピュータに僕としてログインし、保存されている生体認証キーを使って入力しない限りこのデータベースに僕の名前が登録される事はないはずだ。それができるのは……。僕は、ちらっと開け放たれたドアからリビングの方に顔を向けた。馬鹿馬鹿しいコントに大笑いする、僕のオルナちゃんの声が聞こえてきた。

 確かに僕は「アプリ・デイズ」の大ファンだよ。だけれど、ここまで一緒じゃなくてもいいんだけれどな……。

 呆然とする僕に同情のスキンシップをするでもなく、俺様ネコは軽やかにコンピュータ・デスクから飛び降りると、ぴんと尻尾を立ててエサ用食器の前へと歩いていった。僕は、その姿を目で追った。

 俺様ネコはしっかりと頭をもたげて、じっとこっちを見た。何もかも放り出して最優先で行かなくてはならない氣にさせる、あの高飛車な目つきで。僕は、臓器提供確認ページを閉じると、いそいそとキッチンに向かい戸棚からキャットフードを出してきて彼が待つ猫用食器の中に恭しく満たした。礼を言う氣配もなく食べる俺様ネコを見ながら、僕はこれからもこの家でのヒエラルヒーの最底辺に居続けるだろう事を理解した。

(初出:2014年3月 書き下ろし)
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Tag : 小説 読み切り小説

Comment

says...
連投気味ですが、読ませてもらいました!
作って下さり、本当にありがとうございます(・∀・) 二次創作は難しいだろうなと思いつつ、投げてしまったのは本当に申し訳ないです(苦笑)


へぇ、夕さんが書かれるとこんな感じで落ち着くんですね
この物語の主人公のオルナ好きにはかなりびっくりしました
物語にどう組み込まれていくのか気にしつつ読み終えて、予想外のオチに「うわぁ……」と画面の前で呻いてしまいましたw あの短編からまさか臓器定期意思表示の話が出来上がるとは思いもよりませんでしたよ……

楽しませてもらいました

以上です。

2014.03.03 08:33 | URL | #iVT7Zno6 [edit]
says...
なんだか、すみません……orz

二次創作はどう考えても無理だったので(本当は開盛くんを動かせるくらいの腕があったら、やりたかったんですが……)、トリビュート作品にしてみました。

オルナちゃんに憧れるのはいいんですけれど、現実世界の方にはそう簡単にオルナちゃんのような子がいるわけもなく……。

と、いっても単に「もしものときのため」に登録しただけで、別に命を狙っているまではいかないでしょうけれどね。なんせ家計を支えているのも「僕」ですし。

楽しんでいただけてよかったです。また、どうぞよろしくお願いします。

ご参加、ありがとうございました。
2014.03.03 21:43 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
あ~!こんな風に書かれますか。
オルナやリュウ君をどうするんだろうと思っていましたが、なるほど~。
実に面白かったです。
ちゃんと設定が生きていますし、オルナ、じゃない莉絵のキャラ設定はお見事です。出会いのシーンなんか、強引ですけど笑っちゃいます。
ふくよかになったオルナちゃんとか、想像してしまったりして。
そして臓器提供意思表示のオチはちょっとぞっとしました。まさかねぇ。
可愛い顔して莉絵、恐~い。
ニコラはちゃんと意図して行動しているのかな?なにしろ「俺様」なんだから。
2014.03.04 13:45 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

本編に入り込むのは始めから不可能だとわかっていたので、それはあきらめました。
で、どこに食いつくか、ポイントを絞ったら、「あれ」しかなかったと……。

出会いもあれが本当に偶然だったら嘘くさすぎだけれど、そういう設定ならありかな、と。

確かに怖いオチですが、たぶん「もしもしのときのために登録しただけ」で、すぐにいただこうとは思っていないでしょう。五食昼寝つきでも幸せそうですし。あくまでも、たぶん、ですが。生命保険もかけていたりして。

このネコは、わかっていますかねぇ。一代目俺様も実際には何もできないヤツでしたから、今回もきっと態度だけでかいのでしょう。他の方の書く、キュートな猫とえらく違うなあ。ま、いっか。

コメントありがとうございました。
2014.03.04 21:40 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
これは深いですね~
どこまでが作意なのか、あるいはまるきり悪意のないことなのか、悪意という意識の閾値が異なっているだけなのか、それとも大きな勘違いなのか……莉絵視点からの描写がないところがまた、ミステリアスで読みごたえがあります。どうとも見えるし読めるところが面白いです。
しかもそこに猫の自然でいてちょっとわけありみたいな視線。
藍樹さんの元ネタを知らないままで読んじゃったのですけれど、味わい深く読ませていただきました(*^_^*)
夕さん、本当にscriviamo! お疲れ様です。
本当にすごいエネルギーと感動しています。
最近よれよれで読み逃げになっていた私はあれこれ反省しきりでした^^;
2014.03.12 13:58 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
こんばんは。

そうなんですよね。単に「もしかしたらってこともあるから、やっておいてもいいじゃん」程度でやられたのか、それともそれこそ事件の前兆なのか、もしかして主人公が自分でやったのを忘れているだけなのか、真相は藪の中です。

猫も、他の皆さんが書くと、マコトを筆頭にみんなウルトラ可愛いんですけれど、私が書くとこうなってしまう(笑)前回は招き猫だったのですが、コンセプトは「全く役に立たないくせに高飛車で上から目線」なので、こうなりました。たぶん、この俺様ネコは、食べて遊んだ以外、全く何もしていませんね。

とても大変な時に、あの大作を書いていただいただけでも感謝なのに、わざわざありがとうございます!
彩洋さんの二作目の他に、まだ宣言をしていただいた方が、お二人は残っているのですが、どうなったんでしょうかね。今は、彩洋さんへのお返しで七転八倒中でございます。もう少々お待ちくださいませ。

コメントありがとうございました。
2014.03.12 20:06 | URL | #9yMhI49k [edit]

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