scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】第二ボタンにさくら咲く

本日発表する小説は、40,000Hit記念の第一弾で、栗栖紗那さんさからいただいたリクエストにお答えしています。いただいたお題は「卒業」でした。「卒業」って、かなり難しい。感動もかなり昔の事だし、ハートフルな話もみなさん書いていらっしゃるから今さらって思ってしまうし。というわけで、かなり微妙な感じの卒業ストーリーにしてみました。モチーフも定番で。紗那さん、リクエストありがとうございました。

そして、テーマが合うので、先日「自由に使っていいですよ」とおっしゃっていただいたユズキさんの桜の絵で華やかにさせていただこうと思います。ユズキさん、どうもありがとうございます。



第二ボタンにさくら咲く
— Thanks for Shana-San


桜 by ユズキさん
このイラストの著作権はユズキさんにあります。使用に関してはユズキさんの許可を取ってください。

 桜が咲いてしまった。入学式ではなくて、卒業式に。今年は、例年になく早い。だが、それ以外は毎年と変わらない。三年間、この高校で学んだ子たちが、巣立って行く。嬉しいような、寂しいような。

「あおげば尊しわが師の恩、か」
歌いながら涙ぐんでいるあの子たちは、友達との別れは悲しんでいるようだが、歌詞に歌われている「師の恩」そのものはどうでもいいようだ。世話になりまくった担任はともかく、一介の国語教師の僕に何の感慨もないのは、まあ、しかたない。

 僕は特に出番もなくてヒマだったので、講堂にずらっと並んだ卒業生を一人一人眺めていた。生徒会長を務めた沢田は答辞を読むので最前列にいる。妥当だな。お、やんちゃで有名だった川田の髪が黒く染まっている。就職したっていうのは本当だったらしい。その後ろには、ああ、モテ男の荘司だ。このあとの第二ボタン争奪戦が見物だろうな。

 その斜め後ろには、後藤加代が座っていた。彼女も卒業だったかと思うと、少し胸が痛んだ。いや、もちろん教師の僕が高校生の彼女に邪な感情を持っているわけじゃない。だけどなあ。

 本人に告白された事はないが、なぜか複数の人から加代が僕のファンだというようなことを聞かされていた。自慢じゃないが、六年の教師生活で僕が女生徒に憧れられた事はこれまで皆無だったし、これからもないだろう。体操で国体に出場経験がある体育教師の吉川や、憂いを含んだ横顔が腐女子に受けている数学の新城は、バレンタインデーでいつも大量のチョコをもらい、僕ら全くもらえない奴らにお裾分けをする余裕もある。だが、僕は背も高くないし、顔は十人なみ、教えているのも生徒の嫌がる古文と、モテる要素は皆無だ。

 後藤加代は大人しいがしっかりとした印象の子で、成績もそこそこ優秀、クラスに上手く馴染めないでいた同級生を誘ってやるなど、クラス運営に頭を悩ませていた担任からも頼りにされている子だった。

 変な噂は、加代が毎回古文だけ百点を取り続けたところからはじまった。古文の眉村に熱を上げているからだって。それから、「源氏物語」の現代語訳を買うとしたらどれがいいかと質問にやってきたり、クラスメイトの田中真知子の赤点の補習につき合って放課後残ったりしたもので、ますます噂が広まった。でも、バレンタインデーにチョコレートくれなかったし、ただの噂だろう。それでも、卒業してしまうのは残念だな。わりと可愛いし。いや、なんて事を考えているんだ。いかんいかん。

 在校生の歌は悪くなかったし、沢田の答辞もなかなか立派だった。女の子たちは例によってすすり泣き、感動的に卒業式が締めくくられた後、講堂は空になった。

 校庭は春のうららかな光に満ちていて、風で桜の花びらが黒い学ランや、ブレザーの上に散っていく。僕は校舎に戻る前に花見を兼ねて桜の並木を歩いた。そこから見える校庭の一部では、予想通り学年一のモテ男、テニス部の荘司が後輩たちに囲まれていた。プレゼント攻勢にあっているらしい。羨ましい事だ。

 と、目の前の桜の陰に後藤加代がいた。何、こいつも荘司狙いだったか!

「卒業おめでとう。後藤、こんな所で何しているんだ?」
「あ、眉村先生。ありがとうございます。でも、大きな声立てないでくださいよ」
「いや、悪い。なんだ、荘司に用があるんじゃないのか」

 そういうと加代は悪びれもせず肩をすくめて言った。
「ええ、第二ボタン、狙っている所です。ううむ、ちょっと形勢不利な感じ」

 僕は著しくガッカリした。いや、加代とどうこうなりたいとかそういう事ではなくて、ブルータス、お前もかって心境だ。ま、冴えない国語教師に憧れてくれる女生徒なんているわけないよな。だが、そう思えば思うほど、ここでいい所を見せてやりたくなった。

「よし、先生に任せとけ」
「え?」

 桜の陰に加代を残したまま、僕は果敢に荘司と女の子たちのもとに歩いていった。
「こらこら。君たち、何をしているんだね」

「あ、眉村センセー。やばっ」
女の子たちが慌てる。先日の職員会議で決定した卒業式のプレゼント禁止の現場を押さえられた後ろめたさがある。もちろん、この決定は年々華美になる卒業生へのプレゼントを抑止するためにしただけで、誰も本当に禁止しようなんて思ってもいない。だが、今回は、これを利用させてもらおう。

「はい。全部没収。荘司、お前は生徒指導室で説教つき」
「ええ〜!」
女の子たちの非難の声と荘司の不満そうな顔。そりゃそうだろう。

 大人しくついてきつつも、荘司は僕に話しかける。
「眉村センセー、きついっすよ。ほら、あの子たちだって悪氣はないと思うし。それに、俺がなんで怒られるの?」
「うるさい。みせしめだ。それとも取引するか?」
「取引って、なんの?」
「無罪放免+このプレゼントも持ち帰ってもいい。その代わり、お前の第二ボタンをよこせ」

 荘司はぎょっとしたように立ちすくんだ。
「センセー、ロリコンじゃなくて、もしかして、そっちのケがあるわけ?」
「バカっ! ロリコンでもなければ、男にも興味はないっ! 事情があって、お前の第二ボタンをとある女性のために狩る事になっただけだ!」

 荘司は「はあ」と氣のない顔をしたが、無罪放免に加えて大量のプレゼントも戻って来ると知り、悪い取引ではないと思ったらしい。大人しく第二ボタンをブチッと引きちぎると僕のスーツのポケットにつっこみ、プレゼントの入った紙袋を奪うようにして走っていった。

 呆然としたが、氣を取り直してポケットを探ると、ちゃんと糸のついたままの第二ボタンが入っていた。金色の安っぽいボタン。こんなもの、なんで女は欲しがるかなあ。

 振り向くと桜の下で後藤加代が待っていた。花びらがひらひらと舞って、柔らかい黒髪が風に揺れていた。僕はゆっくりと歩み寄って、彼女のふっくらとした綺麗な手のひらに、戦利品のボタンをぽんと置いた。ありがとう、三年間だけでも、モテる教師になったような幻想を抱かせてくれて。これが僕にできる精一杯のお礼だ。

「ありがとう、先生! きっと、真知子、大喜びするわ。絶対無理だって泣いていたから、奪ってきてあげるって、約束しちゃったの」
そういうと、加代は手を振りながら走り去っていった。それだけの事で、僕は再び浮上した。我ながらしょうもないと思った。

 いい人生送れよ。それに荘司みたいなチャラチャラしたのじゃなくて、いい男をみつけろよ! 桜は僕の心にも春を持ってきた。

(初出:2014年3月 書き下ろし)
関連記事 (Category: 読み切り小説)
  0 trackback
Category : 読み切り小説
Tag : 小説 読み切り小説 リクエスト キリ番リクエスト

Comment

says...
更新、お疲れさまでした。

あはははは、いいですね、これ。
脱力した笑いを浮かべながら、加代の背中を見送る眉村先生の姿が、目に浮かびます。まさに、一喜一憂ですね。
加代ちゃんはいい子ですね。眉村先生も冴えない男ですが、とぼけたところがあって鬱屈していないのがいいです。
どこかで偶然に再会した二人が……なんて、微笑ましい後日談を思い浮かべてしまいそうな、愉快なお話でした。
2014.03.23 14:35 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

お氣に召して嬉しいです。
教師と女生徒って、怪しい話になりがちなので、まるっきり違う二人にしてみました。
眉村は本当は明るいオタクにしたかったのですが、「本来は人畜無害なのにイメージで書かれるとオタクへの誤解を呼ぶ」と思われるかもと困るのでやめました。

加代が大人になってから再会したら、結構お似合いかも。っていうか、力関係逆転するでしょうね。

コメントありがとうございました。
2014.03.23 20:21 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
テーマ通りなかなか微妙な卒業ストーリーですね
そしてちょっと先生ひどいですw
そんな風にボタンを横取りするだなんて

私には関係ないからいいか
2014.03.24 08:45 | URL | #- [edit]
says...
おはようございます。

かなり微妙です。

そして、いいんです。第二ボタンを男に奪われたという嬉しくない思いはモテ男はあまりしないでしょうから(^^)

ダメ子さんも、誰かのボタンを狙っているのでしょうか。 って,この習慣、まだあるのかしら?

コメントありがとうございました。
2014.03.24 10:20 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんわ~(*´∀`*)ご旅行は楽しんでいらっしゃるでしょうか。関東は妙に日中あっつい状態ですだ。

微笑ましいようなおかしいような、こういう角度の卒業風景凄くよかったです!w

いかにもくさい先生の話より、普段は脇役に甘んじてるような先生の、ひとつの物語ってかんじが面白いです。さすが八少女さん、視点が違いますね!

後藤さんの最後の言葉に浮かれちゃうあたりが、眉村先生らしさで締めくくって良かったです(^ω^)

桜の絵も使ってくださってありがとうございました(*´∀`*) 八少女さんや大海さんに、素敵な物語をつけてもらえて、蔵出ししてよかったですw 桜の並木でスキップしてる眉村先生の後ろ姿が見えるようですw

ほんとは4万ヒットのリクエストしたかったんですが、新参者ゆえ控えましたが、次の5万ヒットには、絶対1番にリクエストするぞ! と今から虎視眈々と狙っておりまする(・ω・)☆キラン
2014.03.25 13:39 | URL | #mQop/nM. [edit]
says...
こんばんは。

日本は暖かいのですね。いいなあ。ポルト、ちょっと寒いです。
おかげでカフェに入り浸りでウェストラインに危機が!

正統派の卒業ものを書こうとすると、どうしてもありがちな設定になるので、きちんと丁寧に独創設定入れて、たぶんこの五倍くらい長くなりそうです。
紗那さんが期待していらっしゃるのは、そんなに長い青春モノではないだろうなと、あえてこういうおちゃらけ設定にしてみました。

桜は、絶対に何かで書かせていただきたいと思っていたのです。
ただし、季節モノなので、旅行前に書けなかったら無理だと…。
で、リクエストをいただき「あ、これなら桜出来る!」って嬉しくなりました。
彩洋さんの正統派の小説と違っておちゃらけてしまいましたが、ユズキさんのイラストなしには出来なかったストーリーです。ありがとうございました。

リクエストは、どうぞご遠慮なく。次は44444だと思います。

イラストを使わせていただき、またコメントしていただき、ありがとうございました。
2014.03.25 18:05 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
とても楽しく読ませていただきました。
眉村先生のような人、かなり好きです(笑)
あまりモテ系じゃないし、自分でもそう思ってるけど、ちょっとばかり「自分もいけるんじゃないかな?」なんて妙に浮かれてしまうところ。
昔私が書いた男に、ちょっと似てる(笑)
卒業というと、青春とか恋とか告白とか別れとか。
そんなイメージで固定されがちですが、ちょっと違った視点が新鮮で好感が持てて、こんなSS大好きです。
微かに、このふたりの今後の展開を予測できる、淡い余韻がまた、さらにいいですね。
桜の季節。
むくむくと、いろんな妄想が湧いて、絵が描きたくなってたまらない・・・。
(小説は??w)
描く時間が欲しいです><
2014.03.26 01:05 | URL | #- [edit]
says...
おはようございます。
子供から見ると人格者であるべき教師ですが、やはりウロウロ迷う等身大の人間で、でも、許せる範囲の感情の健全な教師を追求してみました。

なんでもできるカッコいい男やどこにいるんだという絶世の美少女のストーリーも嫌いではないのですが、どちらかというとこの手のどこにでもいそうな人の関係を書くのが好きなのです。

limeさんは小説も絵もどちらもOKなので、両方とも創作意欲がムクムクした時は迷うのでしょうね。私は両方とものファンなので、どちらが先でも嬉しいです。帰ってからまた訪問させていただくのが楽しみです。

コメントありがとうございました。
2014.03.26 07:17 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
旅行はいかがですか? すっかり恒例のポルトなのですね。
あぁ、いいなぁと思いながら、この旅行バージョンのテンプレートを見てしまいます。大昔に行ったリスボンを思い出しつつ(って、前も、同じようなことを書いたような……^^;)
ファド、ポルトガルギター、ポートワイン……わ~い(?)

そして桜の物語。
やっぱり夕さんの味付けは独特の世界観があって素敵ですね(^^)
卒業の時の第二ボタンなるものに縁のない学校に通っていた私は(女子高、かつ私服だった)、まるきり想像するしかないのですけれど、この先生と生徒の関係には何となく覚えがある、あの時代の不思議な感覚が蘇ってきます。
それが先生側からの視点というのが面白いです。
さすが夕さん……(^^)
楽しく拝読させていただきました(*^_^*)
2014.03.26 14:49 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

ボクからのリクエストにも関わらずコメント遅くなりました。
今回は定番故に難しいリクエストにお応えくださってありがとうございました。
そうですね、他の方へのコメントでおっしゃっているように、どこかテイストの異なった『卒業モノ』を期待してました。その期待にも応えていただき、嬉しかったです。

眉村先生のような人、ボクも好きです。
生徒の評判に一喜一憂する人間臭さが特に。
先生だって聖人君子じゃありませんからね(笑)

その反面、先生視点では加代さんは出来る人、ですよね。
でも、その彼女をしても、友人のために第二ボタンを貰ってくるのは難しいようです。得手不得手や状況もありますが、やはり人間なのだな、と思わせます。

関係の行方はぼかす、というかそもそも書いていないですが、余韻としてはこの先何かあるかな……でも、なんにもないかも? と想像を膨らませる楽しさがあってよかったです。

さて、この二人どうなるでしょうね? 心の中で楽しみたいと思います。

最後にもう一度、リクエストに応えてくださってありがとうございました。
2014.03.26 15:09 | URL | #T7ibFu9o [edit]
says...
面白かったです。
まんまと八少女さんの思惑にはまってしまったようで、大どんでん返しでした。
美しい青春のヒトコマを描いた爽やかなラストでした。
イヤらしさがないです。
いいなあ。こういうの大好きです。

今でも女子は男子の第二ボタンを欲しがっているのでしょうか。
今時の若者事情も気になるところです。

ちなみに私のところでも、卒業に絡めたお話があるので、お時間があったらどうぞ。『大切な預かりもの』ってお話です。

P.S. 旅行はいかがですか?
2014.03.26 15:29 | URL | #- [edit]
says...
小説のタイトルだけで
ガッシリと心掴まれちゃいました^^
しばらくタイトルだけ繰り返し読んじゃうくらい♪

お話も「クスッ」ってほんわかと笑わせてもらって
今夜は気持ちよく眠れそう^^
ありがと、夕さん♪
2014.03.26 16:20 | URL | #- [edit]
says...
おはようございます。
三度目のポルトですが、何度行っても新しい発見があります。

そして、そう、この話のメインは生徒と先生の微妙なでも清き関係からイメージしました。

あの頃、無邪氣に先生に懐いて騒いでいましたが、今思うと先生は複雑だったかも(^^)

コメントありがとうございました。
2014.03.27 11:33 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
おはようございます。

いえいえ、こちらこそ旅先で、「できました」の報告ができず失礼しました。

普通の生徒同士の健全な話は難しく、こうなりました。

とはいえ、ニュースになるような不埒な教師ではなくて、もっと自覚もあるけれど、人間らしさもある等身大の先生を目指しました。あと五年もすれば普通の健全な二人ですが、今は先生と生徒ですね。

書き甲斐のある季節のお題をありがとうございました。
2014.03.27 11:42 | URL | #PooosTlY [edit]
says...
おはようございます。

いい先生との思い出、けっこうあります。
教職の実習で苦労したので、先生の悲哀もあって、こんな話にしました。

ヒロハルさんのお話もスイスに戻ったら読ませていただきますね。

旅、明日でおしまいです。
帰ったら記事にしますね。

コメントありがとうございました。
2014.03.27 12:48 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんにちは

タイトル、お氣に召しましたか。
第二ボタンの習慣、もうないのかもしれない、と氣づいたのは発表後でした。
今のところツッコミは来ていないのですが。
コメントありがとうございました。
2014.03.27 13:41 | URL | #9yMhI49k [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:https://yaotomeyu.blog.fc2.com/tb.php/790-ca9aa0a2