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Posted by 八少女 夕

【断片小説】「腕輪をした子供たち」より

今日は断片小説ですが、じつは「ユズキさんのイラストにストーリーつけてみよう」企画でもあります。「フリーに使っていいよ」とおっしゃってくださった花のイラストのうち、桜は大流行したのですが、もうひとつあった三色すみれを使いたくて……。

パンジー by ユズキさん
このイラストの著作権はユズキさんにあります。ユズキさんの許可のない使用は固くお断りします。

ユズキさんの記事 「桜とパンジー絵フリー配布

三色すみれの話をどこで使おうかと悩んで、最終的に現在私がひたすら書いている「Infante 323 黄金の枷」の本編に入れることにしたのです。もちろんここに出てくるエピソードを使って別の読み切り掌編にしてもよかったのですが、現在私の頭の中は、こっちの小説でいっぱいで、どうやってもそちらに引き戻されてしまうのです。同じようなエピソードを使って話がかぶるのもなんだなと思いましたので。

そういうわけで、本編を発表してからお見せしてもよかったのですが、そうすると春が終わってしまう(泣)イメージを膨らませるのを助けてくださった、ユズキさんへのお礼の氣もちをこめて、まず、該当シーンだけを断片小説でご紹介してみることにしました。本文中では三色すみれは理不尽な目に遭っていますが、今回は発表していないこの章の終わりでは少しだけ救済される予定です。

もし、これを読んでこの小説にも興味を持ってくださった方がありましたら、近いうちにStella参加作品として連載をはじめますので、読んでくださると嬉しいです。

ユズキさん、素敵なイラストを貸してくださいまして、ありがとうございました!


「Infante 323 黄金の枷」





Infante 323 黄金の枷 - 「(2)腕輪をした子供たち」より

 マイアは坂道を上りきった。車や人びとが行き交い、華やかなショウウィンドウが賑わう歴史地区の裏手に、D河とその岸辺の街並に夕陽のあたる素晴らしい光景が広がっている。ここは貧民街の側でもあるが、どういうわけか街でも一二を争う素晴らしい館が建っていて、その裏庭に紛れ込むと夕景を独り占めできるのだった。

 その館が誰のものであるのか、幼いマイアはよく知らなかった。父親は「ドラガォンの館」と言っていた。門の所に大きな竜の紋章がついているからだ。竜はこの街の古い紋章でもあるので、マイアはこの館は昔の王族の誰かが住んでいるのだろうなと思っていた。テレビで観るようにまだ王様が治めている国もあるが、この国は共和制でもう王様はいない。だから大きな「ドラガォンの館」が何のためにあるのか、マイアにはよくわからなかった。

 彼女は四つん這いになって、生け垣の間の小さな穴を通って、館の裏庭に侵入した。生け垣のレンギョウは本来なら子供が入れるほど間を空けずに植えられているのだが、ここだけは二本の木が下の方で腐り、それを覆い隠すように隣の木の枝が繁っていて大人の目線からは死角になった入口になっていた。ここを見つけたのは秋だった。自分だけの秘密。見つかれば二度とあの光景を独り占めできないことはわかっていた。

 緑と黄色のトンネルを通って下草のある所に出た。手のすぐ近くに草が花ひらいていた。三色すみれだ。マイアはまた少し悲しい顔をした。

 花弁の一番上だけ、他の花びらと異なっている。父親の出稼ぎ先であるスイスで生まれ育ったジョゼが言った。
「この花ってさ。ドイツ語だと継母ちゃんっていうんだぜ」
「どうして?」
「ほら、みろよ。同じ花の中に、三つは華やかで上だけ地味な花びらだろ。この派手なのがいい服を来た継母とその実の娘たちで、地味でみんなと違っているのが継子なんだってさ」

 ジョゼはマイアのことを当てつけて言ったわけではない。彼は転校してきたばかりで、マイアの家庭の事情には疎かった。それに彼女は継母にいじめられている継子ではなかった。妹たちとは同じ母親から生まれたし、実子でないからと言って父親に差別されたりいじめられたりしたこともなかった。単純に母親が死んでから、マイアの周りには腕輪をしている人間が一人もいなくて、それがマイアを苦しめていただけだった。

 マイアは三色すみれを引き抜いてレンギョウの繁みに投げ込んだ。花に罪はないのはわかっていたが、理不尽に憤るまさにこの夕方に彼女の前に生えていたのがその花の不運だった。

 彼女は涙を拭うと、忍び足で裏手の方へと向かった。空はオレンジ色に暮れだしている。カモメたちの鳴き声も騒がしくなってきた。きっと今日はとても綺麗な夕陽が観られるに違いない。明日の船旅には行けないのだ。明日だけではない。きっとマイアはずっと船に乗せてもらえないだろう。どこまでも続く悠々たるD河を遡って、それとも、大きな汽船に乗って、いつかどこか遠くに行きたい。一人で夕闇に輝くPの街を眺めるとき、マイアはいつもそう願った。

 大きく豪華な館の側を通る時は、見つからないように慎重に通り抜けた。けれどしばらく行くと、ほとんど手入れもされていない一角があり、みっともない石造りの小屋が立っていた。きっと昔は使用人の住居だったのだろう。けれど今は廃屋になっているようだった。その石の壁に沿って進み、小屋の裏側に出ると、思った通り空は真っ赤だった。そしてD河も腕輪の黄金のようにキラキラと輝いていた。
「わあ……」
マイアは自分の特等席と決めている放置されている大理石の一つに腰掛けると、足をぶらぶらさせた。

「お前、誰だ?」
突然声がしたので、マイアは飛び上がった。
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Comment

says...
これはPの街とそこを流れるD河での物語の断片なのですね。
三色すみれを上手く使って夕さんの頭の中から物語が湧き上がってくる様子がわかります。ドイツ語だと継母ちゃんっていうんですか?あ~!こんな風にして湧き上がってくるんだ。
夕さんの創作の過程を垣間見たような、そんな気分です。
マイアがどんな子なのか楽しみにしています。
あの街をどのように描かれるのか?どのように舞台として使われるのか?
サキは行ったこともないこの街がすでに大好きになっていますので、いったいどんな街なのか、興味津々です。
足をぶらぶらさせた?サキはその姿を想像していて「お前、誰だ?」で飛び上がってしまいました。
2014.04.27 13:02 | URL | #0t8Ai07g [edit]
says...
こんばんは。

そうなんですよ。サキさんにもおなじみの、あの街、あの河なんです。って、ここで隠すほどのこともなくポルトとドウロがモデルなんですが。
本編では、ありえない話が根底にあって、実際の街と混同されると困るのでPだのDだので語っていますが、できる限りあの街の魅力をも伝えられるような形にしたいと思っているのです。メインのストーリーとは何の関係もないんですけれどね。

ちなみにチョイ役で出した少年ジョゼは、ミクに怒られたあの少年だったりして。

そうそう。脳内ただ漏れですね。特に最初にメインのストーリー、本質に関係しているエピソードがあるんですが、それだけだとスカスカになるので、肉付けみたいにあまり重要でないストーリーを絡めます。今回は、ユズキさんの絵をもとにした小さいエピソードをその位置にはめ込んでみました。ポルトガルで三色すみれがどういわれているかの裏が取れなかったので、スイスにはとても多いポルトガルからの出稼ぎとの関係を利用して無理矢理絡めてみました。

こんな可憐な花にすごい名前なんですね。

>足をぶらぶらさせた?サキはその姿を想像していて「お前、誰だ?」で飛び上がってしまいました。

あはははは。
油断していたマイアと一緒にですね。本当はここで主人公の登場でしたが、そちらは本編の方にとっておくことにしました。

コメントありがとうございました。
2014.04.27 17:39 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんわ~(*´∀`*)

もう一つ前の記事の昆虫写真にびっくりしてしまいましたが、読んでいて「なるほど…」と。
頼まれてる演劇用のイラスト、劇キャラが虫なんです。最近虫の写真ばかり見ていてちょっと悲しい今日このごろです><;

フリ絵使ってくださってありがとうございます(*゚▽゚*)
ていうか、桜絵で皆様がたくさんたくさん素敵な物語を綴って下さったから、それでチョー満足して、実はスミレもあったの忘れてました(ゲホゲホッ

物凄く気になるところで終わってしまった(・ω・)気になるので絶対本編の連載も始まると信じてます☆
2014.04.27 20:20 | URL | #mQop/nM. [edit]
says...
こんばんは。

うわ、知らずして、昆虫写真の上塗りしちゃいました。
例の演劇は昆虫ものだったんですね(笑)

イラスト、使わせていただきありがとうございました。
実は、あの記事を拝見した時、桜よりも先にパンジーの方のアイデアが浮かんだのですよ。
でも、あれだけのアイデアだと独立の掌編にするにはちょっと弱くてどうしようかなと思っているうちに「あ、ここで使えばいいじゃない」と……。でも、そうなったら今度はいつまで経っても発表できないと悩むことに。
で、困ったときの「断片小説」でした。

お、氣になっていただけて嬉しいです。予定では来月が第一回かな……。本編にこのエピソードが登場する時も、もう一度このイラストをお借りしようと思っています。

イラストをつかわせていただき、そして、コメントもいただき、ありがとうございました。
2014.04.27 22:33 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
更新、お疲れ様でした。

いやぁ、八少女夕さんの創作力には、ほんとうに驚かされます。
Pという街って、ポルトだったんですね。うむぅ、読み込み&理解不足だったなぁ。ドナウ川とか、ペトロヴァラディンとか、検索しまくってしまいました。アホだ~(笑)
マイアがどんな子なのか興味もありますし、お気に入りの街をどのように描いていかれるのか、そこにも興味があります。
これ、Stella用の作品なんですね……あ、だから「マイア」なのか(勝手に納得)
楽しみに、読ませていただきます。
2014.04.28 12:28 | URL | #V5TnqLKM [edit]
says...
こんばんは。

ペトロヴァラディンって、そんなマニアックな……。
よくご存知でしたね。さすがTOM-Fさん。

このストーリーは三月のポルト旅行中に出てきて、そのまま私の脳みそを独占中なのですよ。
旅行中の妄想設定を、後付けで若干まともになるよう修正してはいますが、基本は妄想のままなので「何なんだ、この設定は」と引く人が多いかも。でも、このままいっちゃいます。

> これ、Stella用の作品なんですね……あ、だから「マイア」なのか(勝手に納得)

これの意味が分からなくて、検索しちゃいました!
なんとプレアデス星団に関係のある名前だったとは。
いやん、TOM-Fさんったら、さすが天文オタクです!(褒め言葉ですから。改めて言いますけど)
このコメの意味が分かるのは、サキさんぐらいでは(笑)

はい、もちろん、ただの偶然です。旅行中に適当に仮名を付けていたのですが、マリアとかそういう普通の名前にしたくなかっただけでして。そしたら道中でその名前と同じ地名を見つけてしまって以来、「こりゃ運命の名前だ」と動かせなくなってしまいました。Stella用にもいい名前だったとは、うっしっし、ですね。

って、早く書かなきゃ。

コメントありがとうございました。
2014.04.28 20:16 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こちらを拝読して、夕さんって本当にいっぱいの作品を書いておられるのだなぁと感心いたしました。
そして、これは今夕さんの頭の中にある世界なんですねぇ。
本当に夕さんの頭の中にはいろんな世界が満ち溢れているんだなぁと、ちょっとワクワクしました。
こういう掌編でもない、断片小説って、また別の意味で面白いですね。長い物語の一部。その一部を垣間見る感じ。掌編とはまた違う楽しみです。
ユズキさんのイラストのイメージを使いながら、これは本当に夕さんの世界ですね。
夕さん、やっぱり「言葉」からも物語を作られているという気がします。「継母ちゃん」という言葉の不思議さを感じました。
いつかこれが長いお話になって読めるのですね。
また楽しみが増えました。
2014.04.29 06:47 | URL | #nLQskDKw [edit]
says...
竜の紋章などは歴史を感じさせますよね。
同時に重みも感じます。
特にヨーロッパ圏内だと特にそういう重い印象を与えてくれて。
そこから世界観が見られますからいいですね。
2014.04.29 15:38 | URL | #- [edit]
says...
こんばんは。

ええと、今、他の作品はまったく書いていないのです。
たま〜に、こういうことがあります。全部ぶっ飛んじゃって、一つしか書けない時。
これを書かないと、なくなっちゃうのは確実なので、あと半月くらいはこの状態かと思います。
今三割くらい書けていて、八割くらいが埋まったら、とりあえず他のものに戻るかも。
scriviamo! が終わっていてよかったですよ。今は無理だし。

確かに、他のお題小説と違って、これは私の世界にはいっていますね。

そして、ほんとだ。
確かにこのエピソードは「言葉」から出てきた話ですね。
継母と継子の話と言ったら、ヨーロッパのおとぎ話の定番ではありますが、なぜこの花からそれを連想するか、ドイツ語圏の人たちと、はじめて聞いた時に思いましたよ。

明日で「夜のサーカス」が完結なので、その後番組(?)が待ったなしなのですよ。そういうわけで、このストーリーは来月から登場でしょうかね。

みなさんが引くかもと思う話なので公開をちょっと迷っているけれど、こうやって小出しにして反応を確認した感じではそんなに悪くなさそうなので、このままいっちゃいそうです。

コメントありがとうございました。
2014.04.29 19:55 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
こんばんは。

龍を「樋水龍神縁起」という小説でしつこいくらい使ったので、またかと自分でも思ったんですが、モデルにしたポルトの街の象徴なんでまた使うことになりました。ポルトのサッカーチームもドラガォンなんですよ。

で、こっちはドラゴンなので竜と表記することにしました。

ものすごく長く続いている家系の話なので、重みを感じるシンボルも必要ですよね?

コメントありがとうございました。
2014.04.29 20:03 | URL | #9yMhI49k [edit]
says...
ひとつの花の絵からでも、夕さんのなかではいろんな風に物語が膨らんでいくのだなと、この断片小説を見て思いました。
今までに得た、いろんな知識がすべて、その力になっているんですね。
三色すみれにそんな名前があったとは。
このお話は、別のお話の、枝分かれしたエピソードなのですね。
ここだけ見ても、色鮮やかで、広がりを感じます。
断片から、夕さんの物語に親しんで行くというのも、楽しいです^^
またおじゃましますね。
2014.04.30 22:56 | URL | #GCA3nAmE [edit]
says...
こんばんは。

同じ花でも文化圏によって違う言い伝えが違うので、ちょっと意外性のある話には事欠かないのかなと思います。でも、いくらなんでも変な名前ですよね。

この話は、全体の中の一部で、さらに過去の回想部分なのですよ。本編の中で読むのと、一部だけちょっと出しで感じるのとどのくらい印象が変わるのかなあと、思ったりしているのですよ。

読んでいただけて嬉しいです。

コメントありがとうございました。
2014.05.01 19:16 | URL | #9yMhI49k [edit]

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