scribo ergo sum もの書き・八少女 夕のブログ Since March 2012


Posted by 八少女 夕

【小説】リナ姉ちゃんのいた頃 -6- Featuring『ハロー ハロー ブループラネット』

この記事は、カテゴリー表示のためのコピーです。
scriviamo!


「scriviamo! 2014」の第三弾です。ウゾさんは、うちのオリキャラ、リナ・グレーディクを「いかれた兄ちゃん」シリーズにラジオ出演させてくださいました。ありがとうございます!

ウゾさんの書いてくださった掌編『ハロー ハロー 乳製品の国よりスパイシーを込めて』

ウゾさんは中学生のブロガーさんなんですが、とてもそうは思えない深い掌編と異様な博識さで有名なお方です。この企画にも二年連続で参加くださっている他、普段からいろいろとお世話になっています。

お返しの掌編でも「いかれた兄ちゃん」に登場いただいていますが、この兄ちゃんの魅力はなんとしてでもウゾさんのブログで「ハロー ハロー」のシリーズで真の姿を読んでみてくださいね。

そして、「そもそもリナ・グレーディクって誰?」って方のために。リナ姉ちゃんのいた頃シリーズは、もともとウゾさんのリクエストから生まれた作品です。スイスからの交換留学生、リナ・グレーディクが突然ホームスティすることになった家の三男、中学生の遊佐三貴が右往左往する比較文化小説です。



「scriviamo! 2014」について
「scriviamo! 2014」の作品を全部読む
「scriviamo! 2013」の作品を全部読む



リナ姉ちゃんのいた頃 -6- 
Featuring『ハロー ハロー ブループラネット』
——Special thanks to Uzo-san


 日本に来る交換留学生なんて、そんなに珍しい存在じゃないと思う。もちろん我が家にとっては青天の霹靂だったけれど。父さんが言うには、斉藤専務はこれまでに五人くらいの交換留学生をホームステイさせていたんだって。奥さんが高校生の時にアメリカに交換留学に行ってすごく楽しい滞在をしたんだって。だから少しでもお返しをしたくって、日本にはホームステイの受け入れ先が少ないからって率先して協力をしていたそう。そして、リナ姉ちゃんの名付け親ととても親しかったから、姉ちゃんが来るのを楽しみにしていたらしい。ところが姉ちゃんが来る直前になって、奥さんが入院することになり、急遽新たな受け入れ先として白羽の矢が立ったのが、部下である父さんだったんだそう。

 リナ姉ちゃんの故郷はスイスのグラウビュンデン州、カンポ・ルドゥンツ村。人口2000人しかいなくて、牛や山羊が道端を歩いているような所らしい。そんな田舎にも日本からの交換留学生がいたんだって。だから、この1300万人も人の住んでいる東京に、いや、1億2700万の人口のこの日本にどれだけ交換留学生が来ているか、想像もつかない。

 それなのに、なんで姉ちゃんがその代表としてラジオ局に招ばれるの?

 姉ちゃんは朝から大騒ぎだった。例によって前夜からファッションショー。勝負服なので赤を着るんだって。その理屈はよくわからないけれど、逆三角形のシェイプがカッコいい赤地に黒でアクセントの入った革のジャケットとスカートにしたみたい。

「どうしよう。髪型が決まらない。新しいカットソー、買っておいてよかった! それにストッキング、蝶柄と孔雀の羽模様とどっちがカッコいいと思う?」
僕はため息をついてから指摘した。
「姉ちゃん。オンエアーされるって言っても、ラジオだからどんな格好をしていても視聴者には見えないよ」
「そんなこと、問題じゃないわ!」
じゃあ、どういう問題なのさ。

 とにかく、僕は例によって姉ちゃんの日本語の通訳としてラジオ局まで同行することになった。いま一番クールなラジオ局「ブループラネット」に行けるんだ! 栄二兄ちゃんはものすごく羨ましそうで、僕の代わりに行きたがっていたけれど、兄ちゃんの高校で生徒会の大会があるので行けなかった。いちおう、これでも生徒会長だしと悔しそうだった。

 僕は知らなかったけれど、東京にある「ブループラネット」は支局なんだって。なんで「地球支局」って書いてあるのか理解できないけれど、とにかく時間通りに僕と姉ちゃんはちょっとアバンギャルドなインテリアの建物に入っていった。リナ姉ちゃんはぶっ飛んだ性格だけれど、時間だけは厳守する。これはありがたいことだよね。

 僕たちを迎えてくれた人たちは、日本人もいたけれど、外国人なんだかちょっとわかりかねるような微妙な顔立ちの人もいた。変な色のドウランを塗っている人もいたけれど、あれは何のコスプレなんだろう? 僕たちは「第一スタジオ」と日本語となんだかよくわからない記号みたいなのが書かれた部屋に連れて行かれた。ガラス越しに中で喋っている人を見ると、なんかすごいテンションだった。

「あれが今日のDJ、通称《いかれた兄ちゃん》だよ」
ディレクターが、呼びかけるのに差し障りがありそうな愛称をさらりと言った。僕はこれが冗談なのかどうか判断できなくて姉ちゃんを見たけれど、姉ちゃんはケラケラと笑っていた。いいのかなあ。

 で、僕たちは音楽の間に短くDJ《いかれた兄ちゃん》と引き合わせてもらって、それからすぐにオンエアーとなった。

 いつも姉ちゃんには驚かされる。絶対にあがったり、オロオロしたりしないんだね。そりゃ中学生の僕よりは年上だけれど、まだ16歳なのにどうしてこんなに肝が据わっているんだろう。

 DJにどこから来たとか、なぜ日本にいるのとか話すのも堂々としている。だけど、なんで日本で一番氣にいった場所が100円ショップなんていうのかなあ。

 次に姉ちゃんが話しているのは、日本人がスイスに関する話題でいつもハイジのことを持ち出すこと。うん、確かに。でもさ、姉ちゃんの住んでいるグラウビュンデン州ってハイジで有名なところじゃない。住んでいる谷は、ハイジのおじいさんの出身地だって教えてくれたじゃない。

「ヘィヘィヘィィィィ、キュートなエンジェルちゃん。視聴者から質問が来ているぜぃ。気が向いたら答えてやってくれぃベイベー」
そういってDJはFAXの紙を取り出した。

匿名希望 遊
斉藤専務ってどんな人だか知っていますか。あの人には逆らわない方がいいって噂を聞いたんですけれど、本当ですか



淡々と読み上げるDJの言葉を聞いて、僕はぎょっとした。「あの人には逆らわない方がいい」って言ったのは母さんだ。それを知っている「遊」ってまるで僕みたいじゃないか。ガラス越しだから近くには行けないけれど首を伸ばして紙を見る。げっ、あの金釘流の字は、栄二兄ちゃん! なんて質問するんだよっ。もし、斉藤専務がこの放送を聴いていたら……。いや、聴いているに決まっているじゃん! これを止めなかったら、後で父さんが専務に怒られる。そして、僕の来月のお小遣いはどうなる? 僕は必死でディレクターに食いついた。あんなことを答えさせないでって。

 ディレクターは慌てて紙に、僕には全然読めない変な記号をいっぱい書いて、それをDJに振りかざした。それはなんらかの効用があったらしくDJは顔色を変えた。

「そうね。秘密と言うか。私もあまり知らないの。でもね…… そうね……」
リナ姉ちゃんが話そうとするのを彼が必死で止めている。でも、なんか変なこと言っているな。

「斉藤専務の代理人って人物から警告が送られてきた」
えええ。そんなこといったら、斉藤専務が悪者みたいに聞こえちゃうじゃない! やばい。どうしよう。

 ああ、願わくは斉藤専務が腹痛でも起こしてトイレに籠っていてくれて、この放送を聴いていませんように! ダメかな。

 胃が痛くなりそうな僕とは対照的にリナ姉ちゃんは終始ご機嫌だった。放送が終わってからDJとスタッフと一緒にオレンジジュースで乾杯して、出してもらったお菓子を楽しそうに食べていた。それから、ふとスタジオの片隅に積まれている「本日の提供 商品」という一角に目を向けた。僕もしょっちゅうコンビニにいくけれど、こんな変なパッケージのカレーはまだ見たことがない。ビキニ姿の小悪魔がカレーのパッケージを持っていて、そのパッケージの中にも同じ小悪魔がいて、それがずっと繰り返されるデザイン。それに相変わらず読めない記号がいっぱい。これどこの国の文字なんだろう。

 でも、姉ちゃんは細かいことは氣にならないみたい。
「ねえ。このレトルトカレー、何味なの? 悪魔が笑っているけれど、そんなに辛いの? 持って帰っていい?」
「リナ姉ちゃんっ!」

「いいともさー。持ってけ、ドロボー」
DJはご機嫌だった。でもさ、姉ちゃん。いくらいいって言われたからって、50食分も持って帰るのはやめようよ。どうせ持てなくて僕に押し付けるんでしょ。


(初出:2014年1月 書き下ろし)
関連記事 (Category: 小説・リナ姉ちゃんのいた頃)
  0 trackback
Category : 小説・リナ姉ちゃんのいた頃

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:https://yaotomeyu.blog.fc2.com/tb.php/845-3e35ab4c